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映画のグルメ | 斉田 育秀

映画のグルメ | 斉田 育秀

2020年03月04日

№5 007 ロシアより愛をこめて(旧題:007危機一発) ―マティーニをスティアーでなく「シェイクしてくれ!」そのイレギュラーさもボンドの魅力 ―

「主人公の運命やいかに?では次週をお楽しみに!」という「連続大活劇」に、英国伝統の「スパイ映画」のエッセンスがプラスされ面白さが倍増したわけだ。従来のスパイものは、追っかけによる心理サスペンスが主体で武器も拳銃程度だが、007シリーズでは大規模な火銃器の使用や、車・ヘリコプター・飛行機・ロケット・船などを駆使した荒唐無稽ともいえる陸・海・空の戦いが付加され、映像としてのエンタテイメント性が飛躍した。加えてグラマーな美女・グルメ・ファッション・洒落た会話など、サービス精神も豊かで世界中に熱狂的ブームを巻き起こしたのである。

ではここでトリビアをひとつ、美人スパイの上司で強面(こわもて)の婆さんを演じたのは誰あろう。「マック・ザ・ナイフ」で有名な、あの「三文オペラ」の作曲家クルト・ワイルの奥様で、大歌手にして舞台の大女優“ロッテ・レーニャ”その人である。「唇からナイフ」というより「靴先からナイフ」というワイルを気遣ったオチが心憎かった。

「美女と酒」がキャッチフレーズの「ボンド・シリーズ」は当然飲食場面が多い。本作品ではロバート・ショウ演ずる殺し屋が、食堂車で舌平目のグリルに赤ワインをオーダーし、ボンドの不信を買う場面がある(普通は魚に白ワイン)。一方、ボンドは英国人なのに紅茶ではなくブラックコーヒーが大好きで、イスタンブールでもブラックを所望。トルコ・コーヒーらしくデミタスで供されるという考証の行き届いた場面もあった。

話は飛ぶが、「ボンドと酒」といえば「ゴールドフィンガー」のマティーニの話が有名である。“カクテルの王様・マティーニ”は、一般にジンとベルモットにオリーブの実を入れて作るが、いわゆるスティアータイプ(バースプーンでかき混ぜて作る)である。ところがこの映画の中でボンドは「マティーニをシェイクしてくれ!」とオーダーするのである。殺し屋がいえばマナー違反と常識を疑われるが、あらゆることに造詣の深いボンドが言うと、イレギュラーな作り方もキザでカッコイイということになるから不思議である。ちなみに彼の場合はジンの代わりにウォッカを使う。

話題ついでに野菜のトリビアをひとつ、「ブロッコリー」は、この映画の製作者のアルバート・R・ブロッコリと関係がある。彼の叔父が、地中海原産のキャベツの変種、「イタリアン・グリーンスプラウティング」を、アメリカに持ち込み普及させたのでこの名になったのである。

加えて飲食物がらみのトリビアをもうひとつ。最高のボンド役者といえるショーン・コネリーは、スコットランドのエディンバラ生まれである。この隣街がグラスゴーで、100年余り前(1918年)にこの地に学んだのが、NHKの朝ドラ「マッサン」で知られる“国産ウイスキーの父・竹鶴政孝”である。またその6年前(1912年)にはロンドンで“国産マヨネーズの父・中島董一郎”が、マーマレードの勉強に勤しんでいた。ボンドを生んだ英国は、日本の食品業界の先達の修業地でもあったのである。

エディンバラといえば、昔この地に1週間ほど逗留したことがあった。その折スコッティッシュ(スコットランドっ子)にコネリーの事を聞いてみたら、誰もが口をそろえて「彼は女王陛下に次ぐ有名人で、郷土の誇りだ!」というではないか、“サー”の称号は伊達ではなかった。

ところで、最近の007シリーズは“ドンパチ”と“追っかけ”ばかりで、ショーン・コネリー時代のような「人間味というかロマンス」が少々足りない。目下製作中の第25作「No Time to Die(ノー・タイム・トゥ・ダイ)は原点回帰との話もあるので期待したい。もう少し濃厚な?ロマンスを加えて欲しいものだ。

最後に、もともとボンド役はリチャード・バートン、ケーリー・グランド、ピーター・フィンチ、トレバー・ハワード、ジェイムズ・メイスン等が候補に挙がったとのことだが、ショーン・コネリーで結果オーライであった。さて、この手のシリーズは観出すと離れ難くなる。何しろ主人公が「ボンド」だから当然か?

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斉田 育秀(さいた いくひで)
  • 映画史・食文化研究家

斉田 育秀(saita ikuhide)1948年横浜生まれ。1973年東京水産大学(現東京海洋大学)水産学部製造学科卒。同年キユーピー株式会社入社。「醤油ベースドレッシング」の販売戦略を立案、ブームの仕掛け人となる。1992年親会社にあたる株式会社中島董商店に移り商品開発部長。2004年よりグループ会社アヲハタ株式会社の常勤監査役となり、2010年退任し2013年まで株式会社トウ・アドキユーピー顧問。その後、株式会社ジャンナッツジャパンの顧問を経て、現在東京海洋大学・非常勤講師(魚食文化論)。この間海外40余カ国、主要130都市を訪れ、各地の食材・料理・食品・食文化を調査・研究する。

映画のグルメ | 斉田 育秀 ―映画と食のステキな関係―
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サヨナラおじさん(映画評論家・淀川長治氏)の門下生が書いた、名作映画と食べ物のステキな関係。食品開発の専門家がユニークな視点で解説する、映画と食べ物の話。厳選された映画史上の名画63本(洋画43本・邦画20本)を取り上げる。
斉田育秀・著 / 五曜書房・刊 
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