天の位

沼の氷もすっかりとけて
姿浮き立つ湖白鳥

葛西　ヤヨヒ

叙景でありながら物語性がある。オオハクチョウに対してのコハクチョウに「湖」の字を当てることの可否は知らないが心はよく解る。幻想と現実のあい間に白鳥の豊かな動きを置いて春の息吹きを伝えてくる。オペラのワンシーンへと誘う。

地の位

日焼け野良焼けほほ笑む母は
ミレーの絵よりも美しい

飛田　芳野

争いや病いなどなく無事過ぎた一日の終わりに祈りを捧げる一家の絵は、世界の人々の心に古典的な安らぎをもたらしている。母上の微笑みにミレーの絵の安心感を読む作者は実に幸せな人だ。

人の位

幼名で呼び尽きない話
生れ在所の花ざかり

手銭　美也子

ちゃん付けで呼び合う昔話は互いに子供にかえって瑞瑞しい。生れた在所は決して遠くにある訳ではないのになかなか来られない。ましてや花盛りに幼馴染みに出会えて喜びも一入。

十　客

叶うことなら巻き戻したい
父母ときょうだいいる夕餉

向井　智恵子

連続地震におののく人を
思い眠れぬ夜の長さ

石野　文子

個人情報ここまで来たか
持ち物無記名一年生

平岩　静

四年生きたらわたしは百よ
オリンピックに行きたいナ

早川　寿美子

蝶も出て舞う菜の花畑
染井吉野も花盛り

松本　タケ

お洒落心は歳ではなくて
外出衣裳は嫁に聞く

岩崎　ますゑ

歌は人生ドラマを演じ
心支える応援歌

高木　まつ

逢えてよかった「又来年ね」
当てなき別れの卒寿会

仲野　まつ乃

桜吹雪へ大きく開けて
花びら吸い込む鯉の口

勝亦　はる江

夫婦筑波のお山のように
添って離れぬ仲の良さ

惣野　代英子