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医療と健康

2023年04月03日

「目の前をふわふわと蚊が飛んでいる-飛蚊症について-」

それは本当に突然の出来事でした。いつものようにパソコンに向かって仕事をしていた時でした。左眼の奥に少し違和感が出て「アレッ」と思っているうちに、右の外側の視野に黒いカーテンが引かれた感じがして、次には一瞬ピカピカした明るい稲妻のような光が走ったのです。痛みはまったくありませんでした。その後すぐに黒い糸くずのようなものがふわふわと飛んでいるように見えました。目を動かして視線を変えても、その糸くずのような黒い線状の虫のようなものは一緒に動いているのです。さらに、少し暗いところなどで、眼を動かしていると先程のかなり強い稲妻のような光がピカッと走るため、不快で鬱陶しい感じが今も続いています。いずれにしても、視野に糸くずが現れた時、すぐに「あぁ、これが飛蚊症なんだ」と思いました。

飛蚊症(ひぶんしょう)は眼の老化の一つです。正確に言うと眼のなかにある「硝子体(しょうしたい)」の老化です。眼には「眼球」といわれるボールのような球状をした部分がありますが、その球の中身は硝子体というゼリー状の物質で満たされています。若い時の硝子体は弾力がある組織なのですが、歳を取るとともに徐々に弾力が失われて変性(収縮)してゆきます。この硝子体の中に濁りが生じることが一番の原因です。この濁りが視野の中で影のように見えるのが飛蚊症の本体です。視野に現れる形状は糸くずのようであったり、虫のようであったり様々で個人差があります。飛蚊症のもう一つの原因と考えられるのは、硝子体は眼球後方で網膜(眼に入ってきた光により像を結ぶ部分でいわばフィルムの役目をしています)と結合しているのですが、老化に伴って硝子体の変性が進むとともに少しづつ縮んでゆき、ある時突然網膜から剥離してしまうことがあるのです(これを「後部硝子体剥離」といいます)。私が感じた突然の眼の違和感と黒いカーテンとピカピカした稲妻のような光はこの後部硝子体剥離が発生した時の症状(光視症)ではないかと思います。この場合、網膜から剥がれた時に硝子体に入ってきた網膜の細胞塊などが視野に入り込んで黒い糸くずのように見える状態になったと考えられています。

飛蚊症はそのほとんどの場合、老化に伴う眼の変化であり、また発症してもすぐ(2、3日で)慣れてしまい、黒い糸くずも徐々に薄くなり、あまり気にならなくなる場合が多いようです。私の場合も糸くずは感じることが少なくなってきました。それでも暗い所で視野を動かすと右目の外側でピカピカした稲妻はまだ残っています。皆さんも飛蚊症になった場合、とりあえず落ち着いて様子を見てもよいと思いますが、もしも見えていた異物の数が急に増えたり、光が強く見えたりするような場合は、硝子体が剥がれた網膜の側に更に病変が発症した可能性があり、速やかに眼科医を受診することをお薦めします。特に網膜裂孔といって、網膜に強い亀裂(裂け目)が発症すると引き続き網膜剥離が発症し、最悪の場合は失明に到ることもあるのです。

飛蚊症は目薬や飲み薬で治療することは出来ません。発症予防あるいは重症化予防としては、目の疲れを防ぐことが最も重要です。長い時間スマホやパソコンなどで目を酷使することは是非気をつけましょう。目を適度に休めることは大事な目のケアと言うことが出来ます。「目が疲れたな」と感じた時にはまぶたを閉じ、目の回りをゆっくり指でマッサージをしたり、温かいタオルなどを置いて目の回りの筋肉の緊張をゆるませることがポイントです。またパソコンなどを見続けた時などは意識的にパソコン画面から眼を離し、外の景色など遠くを見ることが、お勧めです。私も大学の講義ではパソコンを用いたオンラインの授業をしていますが、受講する学生の方々と一緒に「3-3-3ルール」といって30分に1回、3分間、3メートル以上離れた室内や屋外の景色を見て、眼を休ませるようにし、その後また講義を続ける方法を実行しています。目の老化には飛蚊症だけでなく、白内障や緑内障さらに加齢黄斑変性症など様々な目の病気があります。もしも視力が衰えたり、視野が狭くなったり、ものが歪んで見えたりというような症状があれば、必ず眼科を受診してください。いずれの病気も進行すると失明の可能性もあることから注意しましょう。ぜひ皆さんも眼のケアを忘れずに日々を快適にお過ごしください。

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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