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医療と健康

2020年12月24日

健康寿命

私たちの寿命は延び続け、今では“人生90年”に手が届くまでになってきました。2019年の平均寿命は女性が87歳、男性が81歳で、それぞれ女性が世界2位、男性が同3位です。しかしながら、自立した生活を送ることができる「健康寿命」は、女性が75歳、男性が72歳であり、平均寿命より女性は約12年、男性は約9年も短いことが分かっています。これは「支援」や「介護」を必要とするなど、健康上の問題で日常生活に支障のある期間が平均で9~12年もあるということです。

長い人生、いつまでも元気に過ごすためには「健康寿命」を延ばすことが必要なのです。厚生労働省によると、介護や支援が必要となる主な原因としては、「認知症」が最も多く約2割を占めています。認知症のうち、およそ半数はアルツハイマー型認知症です。次に多いのがレビー小体型認知症、そして血管性認知症と続きます。認知症は高齢になるにしたがい増加し、超高齢社会の日本では約460万人(65歳以上の高齢者の約15%)が認知症を患っているとされています。今後も高齢化が進むにつれ認知症の人は増えることが予想され、2025年には65歳以上の人口の約20%が認知症を有している状況になると推定されています(高齢になるほどに認知症の患者数は増加する傾向にあるために割合が増加します)。

アルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβ(ベータ)(Aβ)と呼ばれるたんぱく質が蓄積し、神経細胞にダメージを与えて発症すると考えられています。20世紀の初め、ドイツの医学者アルツハイマー博士は、生前に妄想や記憶障害のあった女性の脳組織を顕微鏡で調べ、脳の萎縮や、脳内のシミのような物(老人斑:アミロイドβが蓄積したもの)、脳神経の中に糸くずのようなもつれ(神経原線維変化:神経細胞が障害を受けてたんぱく質が線維のようになった状態)を発見しました。その後、この特徴を示す病気を老人性の物忘れと分けて「アルツハイマー型認知症」と呼ぶようになりました。

アミロイドβはアルツハイマー型認知症に見られる老人斑の大部分を構成しているたんぱく質で、健康な人の脳にも存在し、通常は脳内のゴミとして夜寝ている間に短期間で分解され排出されます。しかし、正常なアミロイドβよりも大きく異常なたんぱく質(老人斑)ができてしまうと、排出されずに蓄積してしまうのです。実は認知症を発症する20年も前から脳内に溜まり始めていると言われ、蓄積したアミロイドβは、脳細胞を死滅させると考えられています。記憶の主体である脳細胞が死滅し、物忘れが起こると考えればイメージしやすいと思います。アルツハイマー型認知症は、物忘れ、軽度認知障害(MCI)を経て発症します。

アルツハイマー型認知症を含めて認知症が厄介なのは、進行遅延という対症療法的な治療薬はありますが、病気そのものを治す治療薬は残念ながら今のところ存在しないのです。根本的な治療薬の開発が足踏みする中、最近(2020年12月)、ある製薬会社が軽度認知障害および軽度アルツハイマー型認知症の治療薬を厚労省に申請しています。この薬に効果が認められれば、軽度認知障害および軽度アルツハイマー型認知症の治療に一筋の光明が差し込みます。

加齢とともに起こる心身の機能低下は避けることができません。少しでもその低下を遅らせるためには、日々の生活を少しずつ見直してみてはいかがでしょうか。効果的な認知症の予防法は他の病気と同じく、適度な運動、規則正しい食事、他者とのコミュニケーション、加えて脳トーニングと言われています。何も難しいことをするわけではないのでできることから挑戦してみましょう。

前田智司教授
  • 前田 智司 教授
  • 日本薬科大学 薬学部薬学科 臨床薬学分野 教授 博士(薬学)
  • ヒトが産まれて最初に口にする母乳産生の仕組みと、ヒトして免れられない脳機能低下(認知症)の研究に日々頭を使って研究しています。
  • 日本薬科大学 公式サイト
    https://www.nichiyaku.ac.jp/

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