コラム

かがやく人
「相撲界の存続の為にも隠岐の島の子供たちに出会い、育てたい。」 君ヶ濱 歩さんに聞く「私の健康法」

―今回は元関脇 隠岐の海(おきのうみ)の君ヶ濱 歩さんにご登場いただきました。幼少の頃から隠岐の島の伝統である「古典相撲」に親しみ、現役時代は左四つ・寄りを得意技としてご活躍をされました。現在は八角部屋の部屋付き親方として後進の指導に当る君ヶ濱さんに、相撲界に入られたきっかけや、力士の「食」の問題について、そして後進指導に対する思いなどをお話いただきました。
隠岐の島ではバスケより
相撲の方がかっこいい!
私は隠岐の島出身で、そこには古典相撲っていうのがあり、相撲は古くから街に根付いています。兄貴が相撲をやってたので、自分もやりたいって始めたのが最初なんですけど、いざやってみると同学年がほとんどいなくて、2つ3つ年上とばかり取り組みをしていたんですよ。勝てないから面白くないし、痛いし……というのが最初の相撲の印象でした。でも、よく驚かれるのですが、隠岐の島ではバスケをやる人よりも相撲の方がモテたんですよ。隠岐の島では相撲がかっこいいんです。それならやるしかないじゃないですか(笑)そして本当に相撲部はもてたんですよ。体の大きな人は、相撲やらなきゃね。
お相撲さんは唯一の接地面になる足の裏の手入れが大事です。四股を踏んだり稽古をしたり、足裏は硬くなりますよね。足の付け方が下手だと負担かかって擦れたり、そこが裂けてしまったりするんです。テーピングなどで保護すると、そのカスがひび割れ部分に溜まって、さらにひび割れが大きくなるっていう悪循環になるケースもあります。若い時は自分もひび割れしていましたけど、先輩方から「足の裏が汚い強いお相撲さんは見たことがない。だから足の裏は一番綺麗にしていなさい」「テーピングをいっぱい巻いている人に、強い人いないよ」とか教えられました。やっぱり足の使い方が上手くないとダメですね。
考え過ぎ・追い込み過ぎは
自分をダメにしてしまう
プレッシャーとの向き合い方としては、まず験(げん)を担ぐということでしょうか。勝てば同じことをする、負ければ直していく。もう一つはあえて相撲のことを考えないようにするっていうことです。相撲のことは稽古場と国技館で考える。それまではもう何も考えないです。勝ち負けが必ずあるものなので、どれだけ頑張っても、どれだけ攻め込んでも負ける時はあるし、それを考えると考えるだけ体は動かなくなる。考えすぎてしまうとうつ病みたいになりますから。どんなアスリートでも、最後の方はみんな考え過ぎて、自分を追い込み過ぎて体が動かなくなっていくんだと思います。 勝たなきゃいけない、結果を出したい、昔の自分に戻りたい、昔はああだった、こうだったと考えれば考えるほど、多分ダメになるんです。だから自分は息抜き派でしたね。もちろん稽古をするのが一番ですが、それだけでは疲れは溜まるしメンタルも下がってくるし、どんどん落ちてしまうんです。気楽に色々な人と会って、お酒を飲んで忘れて、寝て、次に頑張るっていのが自分のベストだと思います。
今は力士でも糖尿病に…
「食」は相撲界全体の課題
現役の頃は練習がきついので一瞬で体重が落ちるんですよ。場所が終わると、1週間「場所休み」ってあるんですが、そこでパッと遊び行っちゃうと、ご飯を食べることよりも楽しいことがいっぱいあるんで、食べることが疎かになって、すぐに痩せるんです。
2023年9月に引退をして、もう2年近く経つのですが、先日の健康診断でめちゃくちゃ引っかかりました。過去一悪かったかなって。やっぱり稽古していないからですね。
引退する前からダイエットしたいと思っていたんですが、引退後にお酒が美味しくなりましてね。食事も、現役の時はもちろん美味しく食べていたんですが、さらに美味しく感じるようになって、実際に体重もほとんど変わらず、10kgも落ちていないんですよ。
相撲の世界で食事といえば「ちゃんこ」です。皆さんが想像するのは鍋料理でしょうか? でもカレーもちゃんこ、スパゲティもちゃんこ、なんでもちゃんこって言うんです。以前は魚の鍋が多かったのですが、最近は鶏肉の鍋が多いですね。今、うちの部屋は16人くらいですが、自分たちが入門した時は30人くらいいました。当時は30kgの米が1~2日でなくなるペースでした。肉も5kgとか10kgとか、すごかったですよ。食事が出ると、その瞬間に「勝負っ!」の掛け声で、上下関係なくバーッて食事の取り合いでした。でも、今はこれがないんですよ。食事が出ても飛びつく感じがない。コンビニがあったり、デリバリーがあったり、いつでも自分の好きなものが食べられるからですね。だから今、体が悪い子たちがすごく多いです。力士でも糖尿病になるとか、めちゃくちゃ多くて、相撲界がすごく悪い方向に向かっていると感じます。このままではみんな体を壊しますよ。食はすごく大事ですから。これは相撲界全体の課題だと思います。
隠岐の島へスカウトに
島の人たちは今も相撲好き
今度また、隠岐の島にスカウトに行こうと思っています。今でも島の人たちはめちゃくちゃ相撲好きですからね。自分が育ててもらったように、可能性を持っている子に出会って、育てたいなっていう思いがあります。でも相撲をする子供たちは年々減ってるんですよ。やっぱり相撲の世界でお金を稼ぐには多少なりとも覚悟を決めなければなりませんが、隠岐の島の子供たちが入ってきてくれないと、相撲界は終わっちゃいますからね。そのためには、自分たちも憧れてもらえる存在にならなきゃいけませんね。
そして、船乗りになるというのが子供の頃からの夢でした。隠岐の島で育った「隠岐の海」ですから、海が好きなんです。いずれは自分のヨットを買って、世界一周してみたいと思っています。(談)
プロフィール
君ヶ濱 歩(きみがはま あゆみ)さん
1985年生まれ。島根県隠岐の島町出身。
幼少期から隠岐の島の「古典相撲」に親しみ、小学4年生より本格的に相撲を始める。
スカウトにより八角部屋に入門。2005年1月に初土俵を踏み、殊勲賞1回、敢闘賞4回、金星4個獲得。
現在は八角部屋の部屋付き親方として後進指導に当る傍ら、NHK相撲中継の解説も務める。
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