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医療と健康

2021年06月29日

耳の聞こえづらさに気をつけましょう

誰でも歳を取ると、耳の聞こえ(聴力)が悪くなります。しかし、聴力が低下する時期や程度は人によってかなり異なっています。一般的には65歳過ぎたあたりから少しずつ聞こえづらくなりますが、特に高音域から聞こえにくくなるようです。またテレビを観ている時など、ドラマでの小さな声や音はより聞こえにくく、一方のコマーシャルなどの大きな音は、よりうるさく感じるということがありますが、これを「リクリートメント現象」と呼んでいて、加齢性難聴(老人性難聴)のひとつの特徴でもあります。このように、日常生活のなかで、難聴が進んでいきますと、会話のなかで特に早口で低音の話はかなり聞き取りづらくなります。特に現在コロナ流行のなかで、マスクを着けることが多いのですが、マスクを通した会話はその内容をよく聴きとることができないということがしばしばありますね。

加齢性難聴では、音がまったく聞こえないというより、「音は聞こえるけれど、ハッキリと言葉として聞こえない」とか「相手の話がうまく聞き取れない」ということが多いようです。まずは、あなたが感じている聞こえの状態や耳からのサインに気を付けてみましょう。

当然のことですが、耳の聞こえが悪くなることは脳の働きにも影響を及ぼします。音の刺激が耳から脳に伝わると、まず脳内の「扁(へん)桃体(とうたい)」という部分で、その音の性質によってうれしいとか、悲しいとか、不安とか、希望などの感情が生じます。その感情が強かったりあるいは大切と判断されると、脳内の別の場所にある「海馬(かいば)」と呼ばれる部分にその感情とともに新しい記憶として蓄えられるのです。ですから、感情が強い現象はよりはっきりと(しっかり)海馬に記憶されることになります。刺激が少なく感動も少ない音や声ばかりでは、海馬に記憶として留めることは困難です。だからこそ、高齢期には楽しいことや嬉しいことが、目(視覚)と耳(聴覚)からたくさん入って、しっかり記憶されてゆく日々と過ごしたいものです。

逆に聴力が低下すると、脳に伝えられる情報量が減少し、その分記憶も乏しくなり、その結果記憶を中心とした認知機能が低下することにもつながっているのです。実際私達が東京都在宅の高齢者を2年間追跡した研究では、認知機能を低下させる原因がいくつかありました。特に年齢を重ねること自分で記憶力が衰えたと感じていることなどと同様に耳の聞こえが悪くなったこと(聴覚機能障害といいます)もまた認知機能を低下させる有意な原因があることが明らかになれています。このように難聴によって、脳に音刺激情報が伝わらなくなり、記憶や認知力などが低下することは認知症発症の危険因子の重要なリスク(危険因子)として国内外で数多く報告されています。図1は難聴を放置した場合の認知症発症リスクを表していますが、健常聴力者に比べ重度の難聴者では5倍のリスクが示されています。

図1 難聴を放置した場合の認知症発症リスク

さらに最近、医学雑誌として最も権威があるとされる「ランセット」(Lancet)の委員会からの報告では、認知症のリスクについて小児期から高齢期まで生涯にわたる要因についてまとめられていますが、中年期のなかで最も認知症のリスクの高い病態が難聴であり、もし難聴が完全に無くなると、認知症全体のうちの8%が予防できるという報告がなされ、いかに難聴が認知症の原因として重要であるかを示しています(図2)。

難聴の予防や治療にはやはり補聴器が挙げられます。補聴器は音を大きくだけでなく、聞こえづらい音をその人に適した音として提供できるまでに機器の改良や進歩が見られています。歳を重ねると聞こえづらくなることは、誰でも感ずることですが、「聞こえづらいな」と感じたら、早めに自分に合った適切な補聴器を使うことがとても大切な対応策なのです。耳の聞こえが悪くなったと感じたら、補聴器をつけて日常の感動を維持できるように、聴覚ケア、聴覚トレーニングそして、認知症予防に取り組みたいものです。

図2 ランセットの委員会が報告した生涯にわたる認知症発症に関与するリスク

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 老年学総合研究所 所長、大学院教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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