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医療と健康

2022年05月31日

「高齢期のうつ」について

コロナの流行も2年半となり、これからもまだ流行が収まる目途がたたない状況です。このような長引くコロナの影響により、外出の機会や地域の活動への参加が減り、人との交流やつながりが少なくなった方もおられるかと思います。なかにはこのような状況で、気分の落ち込みを経験される方が増えることも心配されています。このような気分の落ち込みが2週間以上も続く場合は「うつ」の可能性があるので注意が必要です。「うつ」は比較的軽度は「抑うつ状態」から、気分の落ち込みが2週間以上続く「うつ病」までさまざまな程度の症状があります。うつ病は憂うつな気持ちになり、気分が乗らない、気分の落ち込んだ状態が続く病気(気分障害)です。ここでは、主に「うつ病」の特徴や予防について、お話したいと思います。

若い時にはとっても健康的に過ごしていた方であっても、高齢期のうつは、誰でも罹る可能性がある注意すべき病気です。高齢期には特有の精神的ストレスが現れやすい時期でもあります。例えば、子供達が独立し親から離れていったり、退職後に他者との交流の機会がなくなったり、住み慣れた自宅や地域から離れたり、家族や友人あるいはペットとの死別、そして肉体や気力の衰えなどなど、なんとなく張り合いがなくなり気分が落ち込むきっかけはさまざまで、しかもそのダメージは長引くことも少なくないのです。特に性格として、生真面目、完璧主義、自分に厳しい、気を遣うなどの方はストレスを受けやすいと考えられています。ある意味、おおらかさが大切だと思います。

うつ病はやる気の問題や気の持ちようではなく、脳の神経や機能に変調が起こることによる明らかな病気です。特に脳の神経細胞同士でやり取りされている神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)のバランスの乱れが関係していると考えられています。一方うつ病は、適切な治療で改善や回復が期待できる病気です。まずは気分の落ち込みや不安感をともなう体調不良などがないか、時々チェックしてみてください(表1)。

[表1]「高齢期のうつチェック」(厚生労働省「基本チェックリスト」より抜粋)

過去2週間にあなた(家族)の様子について、当てはまる項目をチェックしてみてください。

 毎日の生活に充実感がない。

 これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった。

 以前は楽にできていたことが、今はおっくうに感じられる。

 自分が役に立つ人間だと思えない。

 わけもなく、疲れているような感じがする。

2つ以上の項目に当てはまり、ほとんど毎日続いているような場合はうつ病の可能性があります。

また高齢期のうつでは、精神的に不安定となったり、からだの不調として以下のような様々な症状が現れたりします。特に気分の落ち込みがあまり表に出ず、からだのさまざまな不調や症状として出現することも少なくありません(図)。

  • 不安やいらだち、緊張など、精神的に不安定になる。
  • 食欲が落ちたり、胃部不快感・胃痛がある。
  • 体のあちこちが痛んだり、しびれたりする。また体がだるく感じられる。
  • 頭痛やめまい、立ちくらみがある。
  • 夜に十分快適な睡眠がえられない。
  • 息苦しい、多量の汗をかくなど

うつ病に気付くことなく、放置されることは大変危険です。気分の落ち込みが続くことで、食欲も落ち、身体活動が減少し、その結果、心身の機能が一段と衰えることになります。また、うつ病では身体障害のなかで、特に「眠れない」という不眠を主とした睡眠障害の出現するケースが多いのですが、眠れないことで自立神経のバランスが崩れ、さまざまな身体症状が現れてくると考えられています。さらに気を付けなければいけないことは自殺で、高齢者の自殺の背景にはうつ病のあることが多いとされているのです。

うつ病の治療は、主に①心の休養やそのための環境整備、②薬物療法、そして③精神療法などがあります。うつ病はさまざまなストレスを誘因として発症することが多いことから、過度なストレスがかからないような環境で心の休養をさせることが最も重要です。また、どうしても薬物による治療が必要な場合には、先程述べた脳内物質であるセロトニン濃度を高める作用をもつ治療薬(SSRIやSNRIと呼ばれる抗うつ薬です)などが用いられていますが、薬については専門の医師と相談することが大切です。これらの薬物の効果には個人差があり、必ずしも処方された抗うつ薬が有効であるとは限りません。よく専門の医師と話し合って最適な治療を選択するようにしましょう。

「高齢期のうつ」について

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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