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医療と健康

2022年01月28日

腰痛について

読者の皆様、(少し遅くなりましたが)「あけましておめでとうございます」。

実は私事で申し訳ないのですが、今年1月1日の元旦から腰痛に見舞われました。
特に重いものを持ったわけでもなく、思い当たる節は全くないのですが、昨年の大みそかの夜から何となく腰が重い感じがして、大事をとって早めに就寝したのですが、夜中に寝返りを打ったところ、息が止まるほどの痛みが出現したのです。元日はちょっとした動きでも腰が痛く、お正月どころではありませんでした。もちろん近所の整形外科などの診療所はお正月休みでしたので、自宅にあった湿布薬を張り、さらにホカロンを2枚ぐらい張って、できるだけ安静にして過ごす羽目になったのです。さらに2日目と3日目には湿布薬のほかに、市販の鎮痛剤を服用して様子を見ていました。1月3日には、わずかですが、日中は痛みも和らいできたように感じましたが、夜就寝すると痛みが増すようで、特に朝起きた時には、腰が固まったように動きが悪く、痛みも強くなっていました。1月4日には近所の整形外科クリニックが診療を始めましたので、すぐに(とは言っても、ゆっくりと歩いてですが)受診し、レントゲン写真を撮り、(神経学的兆候に対する)検査をしてもらったところ、「骨や神経には異常がなく、背骨(腰椎)周りの筋肉が原因でしょう」という診断を受けました。それからは、腰回りの筋肉のコリを改善するために、ウオータベットでマッサージをしたり、弱い電流を流したりという治療を受けました。医療受診や診断への納得と安心感もあって、今日この原稿を書いているのは1月6日の午後ですが、少なくとも日中はほとんど痛みを感ずることのないくらいに、腰痛は改善したようです。でもちょっとした動きや動作にまだ腰の重い感じや違和感が残っていて、元に戻るにはあと数日はかかりそうです。

今回私が経験したような腰痛は非常によく見られる病気です。しかもその大部分は原因不明なのですが、実はこの病気、私たち人類に特有の病気なのです。私たち人類=ヒトはその最大の特徴である二足直立歩行を500万年から600万年もの気の遠くなるような長い時間をかけて作り上げてきたのですが、いまだにその不都合が「腰痛」として現れるのです。ヒトに特有の二足直立歩行は脚と背骨を(骨盤を仲立ちとして)ほぼ垂直に立てて、ブレることなく前方へ進むことが可能となった動物界における革命的な歩行様式です。さらに二足直立歩行の進化の過程で人は「手」(ヒト以外の動物では「前肢」といいます)を自由に使うことが出来るようになり、いわば文化や文明といわれる高次の社会を構築してきたのです。
しかし一方で、私たちの体を支える大黒柱のような脊柱(背骨)には大きな負担がかかるようになりました。犬や猫などの四足歩行の動物では背骨(脊柱)にかかる負担は少なかったのですが、ヒトでは直立したために頭の重さの負担に加え、常に重力によって上半身の重み(体重)が脊柱に大きな負担としてかかるようになったのです(図1)。この負担は当然のことですが、脊柱の下に行けば行くほど大きくなります。すなわち骨盤のすぐ上にある「腰椎」と呼ばれる腰の骨に体の上半分の重みが集中的にかかるような構造となってしまったのです。このような二足直立歩行に伴う脊柱への大きな負担こそがヒトに特有の腰痛の原因なのです。言ってみれば腰痛はヒトの進化の産物、宿命なのかもしれません。

(図1)脊椎構造の変化

若い時には腰痛なんて罹ったこともないのに、年を取ると腰痛を経験することが多くなります。最近の国民生活基礎調査によれば、病気やけがなどで自覚症状のある者の割合(これを「有訴者率」といいます)は人口千人当たり約300人ほどなのですが、年齢とともにその割合は高くなり、例えば80歳以上では500人以上、すなわち半数以上の人が何らかの自覚症状を持っていることが示されています。症状別にみると、男では「腰痛」での有訴者率が最も高く、次いで「肩こり」、「鼻がつまる・鼻汁が出る」、女では「肩こり」が最も高く、次いで「腰痛」、「手足の関節が痛む」となっています(図2)。高齢者ではいかに「腰痛」が多いかが一目瞭然ですね。

(図2)性別にみた有訴者率の上位5症状

腰痛を防止するためには腰回りの筋肉をゆっくりと根気強く鍛えることが大切です。私も毎晩、整形外科の先生に教えてもらったように、床の上で仰向けになり、膝を軽く建てた状態で、腰を伸ばしたり、おしりを持ち上げたり、脚を左右にゆっくり倒したり、などなど腰回りの筋肉をゆっくりですが根気強く鍛えるようにしています。高齢期に遭遇する腰痛も含め多くの手足の痛みは、(痛みのないときに)ゆっくりと筋力を鍛えることが予防のポイントのようです(図3)。皆さんもぜひ痛みの予防に気を付けていただきたいと思います。

(図3)腰痛予防体操の1例

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
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