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医療と健康

2022年06月29日

アミノ酸-生命の源-

今回のお話は、直接病気に関わるお話ではありませんが、私達(人間)を含めこの地球上に生きる全ての生命(いのち)に関わる話題です。

皆様のなかにもきっと興味を持った方がいらっしゃると思いますが、つい先日新聞やテレビなどで報じられた話題で、小惑星「リュウグウ」から探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰ったリュウグウの砂の分析結果が明らかにされ、その砂のなかには、タンパク質の材料であり、生命の源でもあるアミノ酸が豊富に存在したと報告されたのです。
小惑星「リュウグウ」は地球から約3億キロ離れた場所にある直径900メートルほどの小惑星だそうですが、気の遠くなるような距離を年余にかけて飛行し、リュウグウから砂を採取しそれをちゃんと持ち帰るという、すごい技術力に圧倒されたのは私だけではないと思います。そのリュウグウという小惑星は太陽系が誕生した46億年もの昔の姿をほぼ保っている小惑星だそうで、いわば「最も原始的な特徴」な状態を保っていると考えられているそうです。その原始的な小惑星の砂から、実に23種類のアミノ酸が確認されたのです。私達人間にとっても必要不可欠な必須アミノ酸である「イソロイシン」や「バリン」、「スレオニン」といったアミノ酸の他、うまみ成分の「グルタミン酸」やコラーゲンの材料となる「グリシン」なども含まれていたそうです。

「リュウグウ」という46億年もの太古から宇宙を漂う小惑星から多様なアミノ酸がまとまって発見されたということは、これまでアミノ酸から構成された生命体、すなわち生命の源は地球だけで進化してきたと考えられてきましたが、そうではなく、この広大な宇宙には私達と同じようにアミノ酸から成り立つ生命体が他にも存在する可能性を明らかにしたのです。なんだかすごくワクワクする大発見ですね。

私事なのですが、大学に入学した時、当時の学園紛争の煽りを受けて一ヶ月程自宅待機を余儀無くされた時、大学から与えられた課題は、当時よく読まれていたロシアの生化学者アレクサンドル・オパーリンの著した「生命の起源と生化学」(岩波新書)を読み、生命について考えることでしたが、生命の起源とその進化について大きな興味を持ったことを今でも鮮明に覚えています。少し大袈裟ですが今回のリュウグウでのアミノ酸発見はその時の大きな感動とワクワク感を思い出させてくれたような気がしています。

さて、リュウグウとアミノ酸の話はこのくらいにし、高齢期の健康維持・増進にとっては、アミノ酸とそれから合成されるタンパク質を充分摂取することが必要不可欠です。特に高齢期によく現れる低栄養、フレイル(全体の虚弱化)、あるいはサルコペニア(加齢により筋肉量が減少し、筋力が衰える状態)などに共通してみられるのがタンパク質の摂取量の低下なのです。私達の体は基本的にはタンパク質から成り立っていると言っても過言ではありません。そのタンパク質は先程から述べているようにアミノ酸という大切な物質から構成されているのです。天然のアミノ酸はおよそ500種類もあると言われていますが、私たち人体を構成するアミノ酸はそれらのうちのわずか20種類だけです。この20種類のアミノ酸のなかで、自分の体で合成できない9種類のアミノ酸を「必須アミノ酸」といい、自分の体の中で合成できるアミノ酸(11種類)を「非必須アミノ酸」として区別しています。当然ですが、必須アミノ酸は毎日食事からその必要量をしっかり摂取しなければ健康の維持はできないことになります。必須アミノ酸としては(もちろん覚える必要はないのですが)、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニンの9種類です(これらの名前の最初の文字をつなげると有名な語呂合わせ「風呂場椅子独り占め」となって、覚えやすいかも・・・?)。

さらにこれら9種類の中で、バリン、ロイシン、イソロイシンの3種類は特に私たちの運動時の筋肉のエネルギー源となることが知られています。この3種類は他のアミノ酸とは少し異なった分子構造をしていて、あたかも枝分かれしたような構造をしているため「分岐鎖アミノ酸」(通称BCAA)と呼ばれ、筋肉中にたくさん含まれています。先ほど述べました、加齢に伴って筋肉量が減ってしまう「サルコペニア」(加齢性筋肉量減少症)を予防するには特にこのBCAAを含むたんぱく質を十分取っておくことが重要となるのです。最近ではこのBCAA、なかでもロイシンをたくさん含むサプリメントなども販売され、高齢者であっても筋肉量や筋力を維持するために、上手に利用していただきたいと思います。

私たちは体の重要な構成要素であるアミノ酸は、食事からタンパク質として摂取されています。毎日食べているお肉や、お魚、牛乳、豆腐、お味噌、お米、パン・・・、ありとあらゆる食品にタンパク質は大なり小なり含まれています。実は、タンパク質にはその由来によって、動物性タンパク質と植物性タンパク質があります。前者は牛肉、豚肉、鶏肉などのいわゆる「お肉」と「お魚」そして牛乳やヨーグルト、さらには卵などに含まれるタンパク質を示しています。後者は特に大豆や大豆製品(豆腐やお味噌)などに含まれるタンパク質を言います。両者ともタンパク質なのですが、それを構成するアミノ酸の種類が異なっているのです。アミノ酸の構成比率からみると、植物性タンパク質よりも動物性タンパク質の方が私達人間にとっては好ましい比率となっています。従って高齢期にはお肉、お魚そして卵などの動物性タンパク質を積極的に食べることを強くお勧めしたいと思います。平均的には1日のタンパク質の必要量は体重1kgあたり1gですが、高齢者の場合には、少し多目に摂取することが健康の秘訣です。たとえば体重50kgの場合、男女とも1日53~55gのタンパク質が必要となります。どうぞ皆さん、毎日の食事には、元気の素、健康の素そして生命の素であるアミノ酸~タンパク質を意識的に取るようにしていきましょう。

体の重要な構成要素

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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