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医療と健康

2021年12月24日

“治らない”を“治る”に変える治療薬

私は、1984年4月に田辺三菱製薬株式会社(旧田辺製薬株式会社)の創薬(医薬品開発)に関する研究所に入社し、2015年3月に同社を退職するまでの31年間に亘って、創薬研究のみに従事してきました。その間に、私は主に高齢者が罹患しやすい疾病の治療薬である①デノパミン(心機能改善薬)、② ビソプロロール(選択的β1遮断薬)、③ エンプロスチル(胃潰瘍治療薬)、④ イミダプリル(ACE選択的阻害剤)、⑤ フルバスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害剤)、⑥ アバナフィル(勃起不全治療剤)および⑦ カナグリフロジン(SGLT2阻害剤 -2型糖尿病治療剤-)の7品目の新薬創製に関わることができました。そして、2015年4月からは創薬研究の現場から離れ、現在は日本薬科大学・薬学科の臨床薬剤学分野の教授として薬剤師の育成と創薬に関する研究に携わっていますが、私の人生の約半分の期間を費やしてきた創薬において、“治らない”を“治る”に変える治療薬へのパラダイムシフトが起こっていることについて、このコラムを通し分かりやすく紹介したいと思います。

創薬においては、2000年頃を境にして大きなパラダイムシフトが起こっています。つまり、2000年頃までは、私が開発に関わった7品目からも歴然であるように、新薬といえば化学物質の合成により作られる「低分子化合物」が主流であり、これらの薬のほとんどは病気の本態を治療するのではなく、発熱、咳、痛みなどの症状を抑えたり、取り除いたりする対処治療薬がほとんどでした。

しかし、2000年代後半からは、ヒトの体内に存在あるいは由来する生体分子(酵素、ホルモン、抗体、核酸など)をバイオテクノロジーの技術を駆使して創製し投与することにより、疾病本態の治癒を目指したバイオ医薬品の開発が急拡大しています。バイオ医薬品の代表例としては、免疫機能を担っている抗体という生体内タンパク質を医薬品として活用する「抗体医薬品」があります。この抗体医薬品の中で有名なのが、ノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学特別教授の本庶佑さんらが開発したがんの治療薬(ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体医薬品)オブジーボ(ニボルマブ)です。さらに、現在では生体分子ではなく、細胞そのものを患部に移植する「細胞治療」やiPS細胞などを含む幹細胞から臓器・組織を再生し移植する「再生医療」が行われています。特に、疾病本態や事故などによって生じた障害を根治させる革新的な治療法をもたらす「細胞医薬品」の開発が検討され、実用化に向けた臨床試験が少しずつではありますが、着実に進んでいます。この「細胞治療」や「再生医療」の優れているところは、移植された細胞が失われた細胞の代わりに働いたり、弱った細胞を元気にしたりすることで、傷ついた組織や臓器が元通りの機能をとり戻すように働きかけます。つまり、疾病や損傷などにより失われた臓器機能や体の一部の機能をよみがえらせる根治治療を実践できるのが「細胞医薬品」です。

創薬でのこのパラダイムシフトを古びたマイホームのリフォームに例えると、長年の風雨や害虫などにより外壁と土台が傷んだ場合、防腐剤を塗ってからペンキを塗ることにより、雨漏りを防いで見た目を綺麗にするのが「低分子化合物の薬」であり、シロアリなどの害虫退治までを行うのが「バイオ医薬品」です。そして、「細胞医薬品」には、傷んだ外壁を貼り替える「細胞移植」と、シロアリにより朽ちはてた柱や土台を新品に置き換える「再生医療」があります。この様ように創薬のパラダイムシフトとは、「低分子化合物の薬」による疾病の対処療法(症状の回避あるいは軽減)から、「細胞医薬品」を含むバイオ医薬品による根治治療をもたらすものなのです。そして、この様ような“治らない”を“治す”に変える治療薬である「細胞医薬品」が臨床で活躍するのは、それほど遠くない近未来であると私は確信しています。

私は、2007年頃から『iPS細胞を介さない細胞内運命転換により創製された代替ヒト肝細胞の再生医療及び創薬研究への活用』に興味を持ち、東京医科大学・分子細胞治療研究部門の落谷孝広教授(元国立がんセンター研究所)らとの共同研究を行い、成熟肝細胞から細胞増殖能を有する肝前駆細胞にリプログラミングされたhCLiP(Human Chemically-induced Liver Progenitors)の薬物代謝酵素機能評価を研究のライフワークとしています。このhCLiPは細胞増殖能を有するので、慢性肝炎モデルの免疫不全マウス(cDNA-uPA/SCIDマウス)の肝臓に移植することにより、マウスの肝炎細胞が癌化することなくhCLiP由来のヒト健常肝細胞に置き換わるので、マウスが肝障害で死亡することなく慢性肝炎の完治(図1)が認められています。近い将来、hCLiPがヒトの肝疾患治療に役立つことを期待し研究を続けています。

山田 泰弘 先生
  • 山田 泰弘 教授
  • 日本薬科大学 薬学部・薬学科 臨床薬剤学分野 教授
  • 博士(薬学)
  • 私の専門分野は、『肝臓での薬物代謝酵素による薬物間相互作用に関する検討』、『iPS細胞を介さない細胞内運命転換により創製された代替ヒト肝細胞の細胞治療および創薬研究への活用』および『ヒト肝細胞の新規培養法の構築と創薬研究への活用』です。
  • 日本薬科大学 公式サイト
    https://www.nichiyaku.ac.jp/

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