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医療と健康

2022年04月27日

標語「80GO(ハチマルゴー)」の紹介

この4月1日に日本医学会連合という医学会の団体から「80GO(ハチマルゴー)」という標語と「フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言」が提案されました。これは、最近高齢者の健康状態に関して問題となっているフレイルを出来るだけ早い段階から予防し、80歳になっても元気に外出できることを目指す新たな社会的な取り組みとして提案されたものです。フレイルについては、このコラムでもだいぶ以前にご紹介しましたが、高齢期になって遅かれ早かれ現れる身体的な衰え、精神心理的な衰え、そして社会的な絆の衰えがいつの間にか忍び寄ってくることを示す言葉です(図1)。

フレイルは多次元の領域にわたる

高齢者特に75歳を過ぎた後期高齢者になれば、誰でもが多かれ少なかれ様々な形でフレイル状態が表れてくるものです。特に、栄養の偏りや口腔機能の衰え(オーラルフレイル)による体重減少、これまで楽しく続けていた趣味の活動や日常の活動や友人たちとの交流の減少、さらにはものを握る力(筋力)の減少や足腰の筋力の衰え、転倒の出現、歩く速さの低下(いつの間にか横断歩道を青信号のうちに渡り切ることが出来づらくなってきたこと)など、知らず知らずのうちに忍び寄ってくる様々な心身の機能の衰えが、病気とは違って日常生活に影響を及ぼすようになってくるのです。ただ、このフレイル状態、気づかずに放っておくと確実に悪化し、介護保険など他者のサポートが必要な状態(これを一般的には「機能障害」と呼んでいます)となってしまいますが、一方でフレイル状態を早い段階で気づき、自分で何とか改善しようと努力することで、かなりの割合で良くなったり、衰えていた機能がかなり戻ったり、あるいは少なくともそれ以上は悪化することが防がれたりすることも広く知られているのです。

いわば高齢期のフレイルの特徴は、気づかないうちに進行するために、その予防として早期の気づきと対応策が大切で、このような予防対策によって介護保険サービスを受ける状態(要支援・要介護状態)を予防することが可能ということができます。実際、地域で普通に暮らしている高齢者約5,000名を対象とした調査によりますと、フレイルの有病率はおよそ13-15%程度ですが、その後2年間の変化を見てみますと、健常な高齢者の方が介護保険サービスを受けるリスク(相対危険度)を1.0としますと、フレイル予備軍(準フレイル)ではおよそ2.5倍、フレイルとなっていた高齢者ではその後の2年間で健常高齢者に比べ約5倍もの介護保険を申請するほどに心身の機能が衰えたことが明らかにされているのです(図2)

身体的フレイルの有無と24か月後の障害発生(介護保険サービス受給)のリスク

フレイルに対する予防はまず自分自身で、最近何か衰えを感じたときに、それがどのような心身の機能なのかをまず自覚することが大切です。例えば昔はもっとさっさと歩けたのに、最近は歩いたり階段を上がったりすることに億劫な気持ちがあったり、ちょっとした段差に躓いたりすることはありませんでしょうか?このような立ったり歩いたり作業したりするような運動能力や移動能力の衰えを特に「ロコモ」と呼んでいます。ロコモとはロコモティブ・シンドロームの略で、移動することを表す英語(ロコモーション)から作った言葉です。ですからロコモとは、移動のための大切な器官である筋肉や骨あるいは関節といった「運動器」が加齢とともに障害され移動機能の低下をきたした状態を指しています。
またもう一つのフレイルの重要な表現型(症状)に「低栄養」が挙げられます。低栄養というと何か病気があるために食事を取ることが出来なくなって低栄養となることがイメージされやすいのですが、一見健康そうに過ごしておられる皆様にも注意していただきたいのは、はっきりとした病気ではないにもかかわらず知らず知らずのうちに食事が偏ってしまったり、食事の量が減ってしまったりして、いつの間にか低栄養の状態になっていることが往々にしてみられるのです。特に低栄養の原因として注意しなければならないのが、お肉やお魚あるいは乳・乳製品、卵などのたんぱく質の摂取量が徐々に減っていくことです。フレイル対策の第一歩は低栄養予防といっても過言ではありません。

もう一つフレイルやロコモを予防することで日本医学会からの宣言の重要な点は、この問題が高齢期だけの問題ではなく、私たち一人一人の人生全体にかかわる問題であることを明らかにした点だと思います。健康にかかわる人生全体での一貫した取り組みを「ライフコースアプローチ」と呼んでいます。子供の時期の元気に飛び回るほどの運動も大切です。中年期のメタボリック症候群(メタボ)をしっかり管理することも大切です。人生全体を通じて身体活動を維持し、歩行機能をしっかり保ち、禁煙や過剰アルコール摂取を控えること、うつ状態を防ぎ、社会的なつながりを大切にすることなど、小児期から高齢期に至るまでの全てのステージでの適切な取り組みが重要であることを今回の宣言では述べています(図3)。

宣言で述べられた「80GO(ハチマルゴー)」というのは、人生100年時代となった今、少なくとも80歳ころまではしっかり歩いて外出を楽しみましょうという意味です。もちろん、車いすを使って暮らしている方の場合は、車いすを自分で操作して外出を楽しみましょうという意味なのです。多くの国民が80GOを目指して健康長寿を謳歌する共生社会を作っていきたいものだと思っています。

人生100根時代における健康寿命延伸のための健康増進と健康対策

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
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