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映画のグルメ

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2020年01月28日

№4太陽がいっぱい ―サスペンス映画好きなら見逃せない、伏線たっぷりのヨットでの食事シーン―

(1960年:フランス・イタリア)
監督:ルネ・クレマン 原作:パトリシア・ハイスミス 脚本:ポール・ジェゴフ 撮影:アンリ・ドカエ 音楽:ニーノ・ロータ 出演:アラン・ドロン、モーリス・ロネ、 マリー・ラフォレ

「禁じられた遊び」のルネ・クレマン監督が、パトリシア・ハイスミス(「見知らぬ乗客」:アルフレッド・ヒッチコック監督で映画化)原作の「天才リプリー氏」を映画化した傑作である。貧しい美青年トム・リプリー(アラン・ドロン)が、大金持であるアメリカ人から、イタリアで放蕩を続ける息子フィリップ(モーリス・ロネ)を連れ戻すよう依頼を受けるが、息子を殺して本人になりすまし、恋人マルジュ(マリー・ラフォレ)まで奪ってしまう物語。アラン・ドロンはこの1作で世界的スターとなった。

クレマンは、「鉄路の戦い」「居酒屋」といった骨太でリアルな作品を作ってきた巨匠だが、1950年代末“ヌーヴェル・ヴァーグ”(フランスで起こった新しい映画の潮流)の若者達に批判され始めると、この作品で反撃に出る。皮肉にもこの映画の特長である、「紺碧の海・白いヨット・きらめく太陽光」を見事に活写した名カメラのアンリ・ドカエと、脚本のポール・ジェゴフはともに“新しい波”の立役者であった。しかし何はともあれ、この成功で台頭する若者達に一矢を報いたわけだ。

放蕩息子に蔑(さげす)まれ、鬱積した怒りが緻密な計算のもと、洋上の殺人と完全犯罪につながっていくサスペンス!もう完璧としか言いようのない作術は、ヒッチコックも脱帽である。

地中海をわたる風が吹くヨット上の殺人とサインの練習シーンが有名だが、ドロンが鏡に向かう(ナルシシズム)場面や、ナポリの魚市場で見るユーモラスな人間そっくりの「エイの顔」、善悪のバランスを暗示した「秤」、カットされ転がっている死体をイメージした「魚の頭」には重層的な意味が読み取れ、単なる娯楽映画の域を越えた“心理映画”として実に面白い。

そしてラスト!望みどおり金も恋人も手に入れ、“太陽がいっぱい”の至福の頂点で起こるどんでん返しで、この作品はサスペンス映画の古典となった。イタリアのクラシック&映画音楽界の巨匠ニーノ・ロータの心に沁みるテーマ曲が格調を、新星マリー・ラフォレがアンニュイな美をもたらす。

監督・主演者がフランス人なので、この映画の舞台を南仏と思う人が多いが、実はローマとナポリ近郊の漁村、そこでこの付近を中心にイタリアの食材の解説をしてみたい。

現在でこそイタリアの北と南は均質化してきたが、名作「にがい米」(1948年)の舞台であるポー河を境に、北(コメ)と南(パスタ)の食文化圏は厳然と存在する。北のバターは南ではオリーブオイルになる。ナポリのスーパーに行くと、パスタ・トマト・オリーブオイルの半端ではない陳列量に圧倒される。

またイタリア人は想像以上に魚介類を食べる。“ヨットの食事”で出た魚は、たぶんニンニクとオリーブオイルのソテーだ。絞っているレモンはトマトとともにこの付近の特産品、そのリキュール「レモンチェッロ」は、「ババ」というリキュール漬のお菓子とともにナポリ土産の銘品である。

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斉田 育秀
  • 映画史・食文化研究家

1948年横浜生まれ。1973年東京水産大学(現東京海洋大学)水産学部製造学科卒。同年キユーピー株式会社入社。「醤油ベースドレッシング」の販売戦略を立案、ブームの仕掛け人となる。1992年親会社にあたる株式会社中島董商店に移り商品開発部長。2004年よりグループ会社アヲハタ株式会社の常勤監査役となり、2010年退任し2013年まで株式会社トウ・アドキユーピー顧問。その後、株式会社ジャンナッツジャパンの顧問を経て、現在東京海洋大学・非常勤講師(魚食文化論)。この間海外40余カ国、主要130都市を訪れ、各地の食材・料理・食品・食文化を調査・研究する。

映画のグルメ ―映画と食のステキな関係―
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サヨナラおじさん(映画評論家・淀川長治氏)の門下生が書いた、名作映画と食べ物のステキな関係。食品開発の専門家がユニークな視点で解説する、映画と食べ物の話。厳選された映画史上の名画63本(洋画43本・邦画20本)を取り上げる。
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