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医療と健康

2023年12月26日

「おせち料理」

このコラムが皆様のお目に止まるのは、もう年の瀬も押し迫った十二月も下旬ということになっているでしょう。師走と言われるように年末の慌ただしさや、新しい歳を(ちょっとした期待感をもって)準備している方も多いと思います。日本人にとって新年の第一日目となる元旦は最も重要な節目の日であり「晴れ」の日でもあります。時代はずい分と変わりましたが、お正月の料理は「おせち料理」として、伝統的な和食の多様なお品の数々が食卓を賑わすことは今日もあまり変わっていないと思います。おせち料理は元々「御節(おせち)料理」と言われ、「節(せち)」、すなわち季節の変わり目毎に神様に感謝を示すためのお供えのための料理だったそうです。このような「おせち料理」の起源は古く、風習として定着したのも奈良時代~平安時代にまで逆登るとか。その後、千年以上も経て江戸時代になると、最も重要な五節句である正月元旦には一般の庶民の間でも「御節料理」が準備され、家族皆なでこの「晴れ」の料理を楽しみ、新春を寿ぐ特別な一日になったとのことです。

おせち料理には、五穀豊穣、不老長寿、子孫繁栄といった新年に願うべき思いが込められ、それらにふさわしい品々がおせち料理には必ず含まれています。例えば「数の子」はまさに「大勢の子宝に恵まれる」という意味が込められ、「黒豆」は「マメに働いて、健康で元気に過ごせる」よう願いが込められているのです。また「伊達巻き」は見た目が巻物のようになっていて、書物を連想させることから、「学業成就」の願いが込められ、「栗きんとん」はその色から金を連想させ、「金運に恵まれ、商売繁盛」を意味していると言われているのです。このようにおせち料理は、その一つ一つが新しい一年の幸せを願った品々から成り立っているのですが、別の言い方をすれば、日本の豊かな自然がもたらす海の幸、山の幸を上手に取り入れた、食の多様性に富んだお料理と言えます。

実は最近の数多くの研究から、日本食(伝統的和食)は食の多様性に富み、健康づくりには理想的な食事であることが明らかにされていて、世界的にも高い評価を得ているのです。そういえば「和食」はユネスコの無形文化遺産に登録された食文化として、今年でちょうど10年を迎えた日本人が誇るべき食文化でもあるのです。和食の基本となる「一汁三菜」、すなわち、お米のご飯にお味噌汁、お漬物を基本として、主菜(主としてお魚)と一つか二つの副菜(主として野菜)によって食卓を飾っているのです。明治維新以降は伝統的和食に加えて、ハイカラな西洋料理が流入し、さまざまな肉料理も食卓に取り入れられるようになり、和食と洋食と折衷したような料理も数多く生まれました。和食の一つの特徴として、歴史的に外来の料理を上手く取り入れ、常に新しい和食の料理を発展させてきたことが、食の多様性を生み出してきたと言っても過言ではないでしょう。

おせち料理

「食の多様性」」は高齢者の食事にとっては非常に大事な要因ということができます。高齢者の食事記録を基にして、食品摂取の多様性を栄養素との関連性について分析した研究によると、食の多様性が小さい方は大きい方に比べると特にたんぱく質の摂取が少ないことが明らかにされました。以前のこのコラムでも書きましたが、高齢期では知らず知らずの間にたんぱく質(特に動物性たんぱく質)の摂取が少なくなってしまう特徴があります。たんぱく質の摂取が少なくなると、フレイルやサルコペニアなど日常生活を脅かす状態になりやすいことが知られています。実際、例えば食の多様性を1~10点(満点)まで表す「食の多様性得点」と日常の生活を自分で切り盛り出来る能力「生活機能」との低下の危険性を明らかにした研究からは、1~3点という多様の低い高齢者に比べ、9~10点の高い多様性の食事をしている高齢者では、生活機能が低下するリスク(危険性)は40%以上も少なかったと報告されています。このことは、お肉やお魚などのたんぱく質の豊富なおかずなど、野菜などの副菜が並ぶ食卓での食事を楽しむ方はいつまでも元気で充実した生活を楽しめることを示しているのです。また別の研究では、日本の地域で暮らす高齢者を対象として、食の多様性とさまざまな身体機能との関連性を、食の多様性の分析し、大きな方は小さな方に比べて、足腰などの筋肉量は大きく、また握力や歩行速度なども明らかに優れていたと報告されています。このように、多様性のある和食を通じて、さまざまな栄養素=さまざまな食品を好き嫌いなく万遍に摂るような生活に気を配る方は、毎日の生活をイキイキと暮らすことが可能になってくることを表しているのです。毎日の食事では出来るだけ様々な食品、すなわちごはんと味噌汁以外、特に魚介類、肉類、卵や牛乳、大豆製品、緑黄色野菜、海藻、いも類、果物、そして油脂類など毎日少しずつ食卓に載るような多様性のある和食を摂っていただきたいと思います。そんな願いも含めて、皆様、おせち料理を楽しんで良いお歳をお迎えください。

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
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