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医療と健康

2021年08月31日

タバコの煙は死出の旅!?…

今回のテーマはタバコについての話です。タバコが日本に伝えられたのは、今から400年以上も昔の元亀~天正年間(ちょうど、明智光秀や織田信長の時代ということになります)のことで、ポルトガル人によってガラスの製法などとともに伝えられたと言われています。その後一般の人々に広まったタバコは、これまで「延命草」とか「仁草」と称される反面、「毒草」とも「貧乏草」などとも言われ、その功罪がずっと問われてきました。

しかし、現在では、タバコの喫煙は肺ガンの重要な原因となっている他、高齢者の肺を蝕むCOPD(慢性閉塞性肺疾患)という恐ろしい病気の重大な危険因子となっていることが明らかとなっています。50年以上の喫煙家であった植木等さんや桂歌丸さんをはじめCOPDで呼吸困難となり、死に到った有名人も少なくありません。さらに動脈硬化や認知症の原因ともなっていて、かつては(少しきどって)「ダバコの煙が目にしみる」などと言われていましたが、現在では、まさに「タバコの煙が死出の旅」ということで「百害あって一利なし」ということが明らかになっています。また世の中は嫌煙の高まりもあってタバコは本当に嫌われものとなってしまいました。「毒草」である以上、嫌われても致し方ないことだと思います。

我が国での喫煙率をみてみますと(図1)、そのピークは昭和40年頃にありました。その頃は男性の喫煙率はなんと(!)82.3%、すなわち成人男性の8割以上が毎日モクモクとタバコを燻らせてたということになり、当時の60歳以上の喫煙率をみても、男性74.6%、女性23.0%と非常に高かったことが判ります。その後55年を経て、今日では男性の27.1%、女性7.6%、そして全平均は16.7%というレベルまで喫煙率は下がってきたということで、国民の皆さんの努力の賜といえるかも知れません。

(図1)我が国の喫煙率の推移我が国の喫煙率の推移

しかし、つい最近世界204ヶ国・地域のおける1990年~2019年の喫煙動向を解析した研究結果が明らかにされましたが、そのデータをみますと、2019年の喫煙者数は全世界で11億4,000万人だそうですが、ワースト10のなかに日本は堂々の(?)第7位(2,196万人の喫煙者)として入っていたのです。さらにタバコは男性の死亡の原因(危険因子)の第1位であることが報告され、喫煙に関連する死亡が全死亡の20.2%を占めていたことが明らかにされました。特に喫煙に関連する死亡の原因疾患として、心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患、呼吸困難となるCOPD、肺ガンそして脳卒中が挙げられています。重要なポイントのひとつは、これらの死亡者のうち現在の喫煙者が87%を占め、15年以上前に喫煙した人の割合はわずかに6.2%ということでした。このことはタバコを吸ったとしても、出来るだけ早いうちに禁煙することの重要性がはっきりとした結果として示されたということなのです。もちろん、高齢期になってからの禁煙も重要で家族全体にとっても大きな意味があります。その最大の恩恵は「受動喫煙」、すなわち、周りの家族やタバコを吸わない人々の病気となるリスクを減らすことができることです。この受動喫煙で、年間およそ1万5千人が死亡しています(うち、1万人は女性です)。国としても受動喫煙による健康被害は何とか食い止めようとしています(図2)。平成31年には改正健康増進法と呼ばれる法律によって、(1)望まない受動喫煙が生じないよう注意すること、(2)喫煙者に対して「喫煙をする際の配慮義務」、そして(3)多数の者が利用する施設の管理者に対して「喫煙場所を設置する際の配慮義務」が課せられました。

(図2)わが国での受動喫煙による年間死亡者数と原因疾患わが国での受動喫煙による年間死亡者数と原因疾患

また先程もちょっと触れましたが、タバコは認知症、特にアルツハイマー病の危険因子でもあるのです。以前紹介した英国の医学雑誌「ランセット」の委員会からの報告では、喫煙は高齢期での認知症発症の最大の危険因子(リスク)となっており、もし高齢者の喫煙が完全に無くなった場合には認知症全体の5%を減ずることが可能であることを訴えています。これは、「うつ」や「運動不足」、「糖尿病」などよりも大きな認知症の削減割合(「人口寄与割合」と呼んでいます)で、高齢期であっても出来るだけ早くタバコを禁煙することが重要ということを示しているのです。もしタバコを止めることで認知症が5%減ったとすると認知症に掛かる医療費や介護費そして家族の負担など表に出ない費用(インフォーマルコスト)などの年間の推計される社会的費用14.5兆円のうち7,000億円以上を削減できるということになり、タバコを止めることにより、巨額なお金をセーブ出来ることになります。愛煙家には厳しいことかも知れませんが、禁煙は御本人は勿論、家族などの身近な人々、そして国民全体にも大きな利益と福音をもたらすことになるのです。

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 老年学総合研究所 所長、大学院教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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