高齢者のための情報サイト【日本老友新聞】

老友新聞
ルーペ

コラム

2021年08月31日

「江戸のお稽古ブーム」稽古場は住まいの一部~連載63

(本稿は老友新聞本紙2016年6月号に掲載された当時のものです)
皆さんご存知でしたか? 6月6日は邦楽の日・楽器の日です。
昔から日本の芸事は6歳6月6日より始めると上達すると言われていたので、邦楽の日は1985年に東京邦楽器商組合が、楽器の日は1970年に全国楽器協会が設定した記念日です。

経済的に豊かになった江戸中期、身分階級に関係なく、いろいろな習い事が流行しました。
勿論、ピアノや英会話などが無い時代のことなので、商家では女の子に筝や三味線などの音曲を習わせる家が多くありました。当時は武家に奉公するというのがステータスで、良縁に恵まれることを望んでいたので、行儀見習いも兼ね、様々な習い事に通わされて、女の子達は遊ぶ間もない忙しさでした。

一方、大人の男達の間では、三味線、小唄、端唄を習う事が流行しました。これがいわゆる「道楽」と呼ばれるものです。芝居好きが高じて歌舞伎の伴奏に使われる三味線を習う男性が多く、商家の旦那が集まっては三味線をつま弾きながらのどを競ったり、楽しんだり、粋な時間を過ごしていました。

江戸市中には、当時いろいろなお稽古の教室が「稽古所」「稽古屋」「稽古場」などという看板を掛けて存在し、その中でも義太夫、長唄、清元、尺八、筝、三味線などが人気でした。また「男らしい蕎麦のいただき方」「格好の良いたばこの吸い方」などを伝授する【所作指南】という男子の作法教室というようなものもあり、これは現代でも是非やっていただきたいお稽古だと思います。落語には「おくび指南」という噺がありますが、春夏秋冬それぞれのあくびの仕方を教える師匠が登場し、いつ聞いても笑える噺です。

当時の三味線の師匠はほとんどが女性。当然、お稽古は二の次で、師匠お目当てに弟子入りする人もいたでしょう。稽古場はだいたい長屋の一室で師匠の住まいの一部。小ざっぱりとした部屋でお稽古をしますが、器用な師匠は子供達に読み書きや裁縫を教える人もいたので、文机には書籍なども置いてあったと思います。
三味線や唄のお稽古は座る場所さえあれば出来るので、狭くても不自由はありません。後は時間差で教えて行けばよいのです。筝の場合は楽器も大きいので師匠の家は一軒家が多く、師匠は男性もおり、お目が不自由な検校という人が教えていました。こちらの弟子は嫁入り前の娘がほとんどで、行儀見習いも兼ねての弟子入りです。

どんなお稽古でも、腕が上達すれば人に披露したいと思うもの。「おさらい会」「発表会」という形で、江戸の人々もその成果を外に出して腕を上げていったのです。そして、音曲ブームはどんどん広がり、幕末の頃には、近所に一人は三味線のお師匠がいる状態になっていました。

6歳とは小学校に上がる年です。今の子供達にもいろいろなことに興味を持ち挑戦していただきたいです。日本の楽器の旋律は私達のDNAにしっかりと刻まれている陰旋法。子供の頃に聞いたこもり唄、さくらの音階なので必ず心の奥に響くのです。年齢に関係なく是非とも和楽器の音色に耳を傾けて、何か心に感じていただきたいと思っています。
(本稿は老友新聞本紙2016年6月号に掲載された当時のものです)

この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。

酒井 悦子
  • 伝統芸能コーディネーター / 筝曲演奏家

幼少より生田流箏曲を学び、現在は国際的に活躍する箏演奏家。

箏の修行と同時に、美術骨董に興味を持ち、古物商の看板も得る

香道、煎茶道、弓道、礼法などの稽古に精進する一方で、江戸文化の研究に励み、楽しく解りやすくをモットーに江戸の人々の活き活きとした様子と、古き良き日本人の心を伝えている。

高齢者に忍び寄るフレイル問題 特集ページ
トップへ戻る ホームへ戻る