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2018年02月16日

失ってはいけない日本の原風景「餅つき」…それは雪国の歓迎の響きでした<市田ひろみ 連載23>

新春。ノロウイルスの流行で、一部気がかりな空気が流れた。「お鏡つき」も中止しなければならない地域も出てきた。

日本の各地で行われる餅つきは、日本の正月の原風景であり、市町村では御近所さんとの共同作業でもあった。

私もあちこちで餅つきの風景を見たけれど、思い出にのこるツアーがある。呉服屋さんの雪国へのツアー、新潟・南魚沼郡六日町温泉の「龍言」の旅だ。※

雪深い2月か3月の行事で、人気があり、20人くらいのグループで、私も4~5会同行した。

旅館について、チェックインすると、早速餅をつく音が始まる。

玄関の間に走る。何回も参加している人は流れを知っていて、爐端に座している。いつもの雪国の歓迎の響き。

そろそろ餅がつきあがる。小皿にあずきをまぶした丸餅と、きなこをまぶした丸餅。

客につきたての餅がくばられる。

私はこの歓迎の持ちつきの風景を忘れることが出来ない。

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新潟はきもの産地としても魅力的だ。越後上布、小千谷縮、十日町紬など。私の夏のきもの暮らしを支えてくれているのが麻のきものだ。

ツアーに参加している人たちは、いずれも「きもの通」の人たちで、伝統的な作品は今も人気だ。

上越の作品を勉強して雪景色を見ながら美味しいお酒を頂き、その上、京の冬の風景とは違う日本の失ってはいけない風景を楽しめる。

 

都会の食生活は今、アレルギーという見えない敵と対峙している。おそば、牛乳、鶏、玉葱など、かつての日本の食生活が、見えない敵におかされていたのだろうか。

何回か手を洗えば、ノロウィルスも死んでくれるのに。

たしかに膨大な輸入食品をチェックするのも大変だ。

 

1968年、私の最初のヨーロッパの旅で驚いたのは、水を買うということだ。

日本の水は、水道から充分美しい水が出るから……と思いつつも、今は日本でも水を買うことになってしまった。

ボーダレスの時代に入りつつある日本で、食生活の安全を言うなら、生産地、製造地までたどっていかなければならないから、行政を信じるしかない。

 

我が家の近くの京都御苑に「染井の井戸」がある。平安時代から名水として知られていて、今もペットボトルを持って、水をもらいに来ている。

地下水を頂けるように、ポンプが併設されているが、そのポンプのある梨ノ木神社に参拝するでなく、賽銭をいれるわけでなく、無料で清水をもらって帰るのだ。

安心・安全の暮らしを考えると、やはり秩序を知らせてゆくことが大事だ。

外国からの観光客が多いことのひとつに、日本の治安の良さがあるが、同時に、驚く程清潔な環境の評価がある。

日本人のきれい好きのあらわれ。きもの姿でも、一番よごれやすい衿と足袋に白をもってきて、それがよごれないように衣生活を送るのだ。

 

餅つきという共同生活の中に、安全への情報交換があるし、人間同士のコミュニケーションが生まれる。

また、いつの日か、あの雪の日の風景を見に行きたいと思っている。(老友新聞社)

※龍言…新潟、六日町の温泉御宿

 

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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