高齢者のための情報サイト【日本老友新聞】

老友新聞
ルーペ

医療と健康

2020年04月06日

超高齢社会のリアル -健康長寿の本質を探る- 連載7「ロコモとサルコ」

1.ロコモについて

ロコモティブシンドローム(略称;ロコモ、和名;運動器症候群)は、2007年に日本整形外科学会によって提唱された概念です。ロコモとは骨、筋肉、関節などの運動器の老化や障害のために、歩行能力の低下した状態であり、要介護状態へ移行する危険性が非常に高くなった状態を示すものです。加齢に伴う運動器の障害や疾病の中で、特に骨では骨粗鬆症、関節では変形性関節症が有名です。それらの病気はこれまで主として整形外科の医師たちが診断や治療の中心となってきました。最近、筋肉についてはサルコペニア(加齢性筋肉量減少症)がロコモの重要な状態であり生活機能を障害する大きな原因であることが、老年医学の領域からも報告されるようになってきました。ロコモの実際の患者数やや有病率などに関して日本でも比較的大規模な地域に住む高齢者を対象とした研究(コホート研究)も実施されています。

ロコモでは運動器の障害によって移動機能の低下した状態を示しているのですが、ロコモの危険性の高い(ハイリスク)高齢者に対する早期発見と早期対策が重要となっています。日本整形外科学会ではその評価として「ロコモ度テスト」を推奨しています。これは①立ち上がりテスト、②ステップテスト、③ロコモ25(25項目からなる質問表)の3項目からなる比較的簡便なテストです。このテストの結果から、ロコモ度1(移動機能の低下が始まっている)あるいはロコモ度2(移動機能の低下が進行している)を判定しています。ロコモ度2は実際に相当日常生活に不便を感じることが多いと考えられています。

2.サルコペニア(加齢性筋肉量減少症)についいて

フレイルは前回の本連載で述べましたように、身体的フレイル、精神心理的フレイル、そして社会的フレイルを含んでいますが、中でも身体的フレイルの中心的な状態像がサルコペニア(加齢性筋力減少症)と呼ばれるものです。サルコペニアは加齢に伴って筋肉の量が非常に大きく減少する状態ですので、当然、筋力の低下も伴います。

そのため、様々な身体機能の制限、歩行速度の低下、転倒の増加、要介護状態の発生、さらに死亡率の増加など、日常生活のうえで多くの好ましくない状態と関連しています。いわば高齢期の「生活の質(QOL)」を悪化させる原因の一つといえましょう。サルコペニアの原因については、1)加齢に伴う身体活動や運動の不足、2)お肉やお魚などの摂取量が低下し、(血液中のタンパク質不足やビタミンDなどの低下による)栄養学的不良、2)性ホルモンなどの体内のホルモンの減少、あるいは3)慢性的な体内の炎症性変化など、が背景となっています(図;サルコぺニアの機序)。筋肉内部では「速筋繊維」と呼ばれる瞬発力を生み出す白っぽい筋肉が減少し、筋肉内部に脂肪が侵入してくることが特徴的です。

[図] サルコぺニアの機序

高齢期におけるサルコペニアでは、筋肉量の減少よりも、まず歩行速度や握力で代表される生活機能低下の有無を確認することがより重要と考えられています。実際のサルコペニアの有病率については、国立長寿医療研究センターが長年実施している老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)のデータと総務省統計局発表の人口推計を用いて全国推計をおこなっていますが、その結果、日本人高齢者におけるサルコペニアの有病率は男性9.6%、女性7.7%となり、患者数は男性で132万人、女性で139万人と推計されていますが、後期高齢者になるとその患者数は急に増えていることが明らかにされています。

サルコぺニアに対する予防対策に関しても多くの科学的根拠が積み上げられています。身体活動や運動が最もよく筋肉量や筋力を改善することはかなり以前からわかっていましたが、運動による筋量・筋力の増加のみならず、適切な栄養、特にお肉やお魚という、動物性たんぱく質の摂取や、筋肉の合成に有用なアミノ酸を付加したサプリメントの服用、あるいは血中のビタミンDの維持なども有効な予防対策であることが多くの研究から明らかにされています。たとえばわが国で実施された地域在宅の75歳以上の後期高齢女性のなかで筋肉量および筋力のいずれも減少し、サルコペニアと判断された女性を対象として運動(筋力と歩行能力の向上)と栄養サプルメント(アミノ酸;特に筋肉に大事なロイシンと呼ばれるアミノ酸が多く含まれる)の服用によるサルコペニア改善のための質の高い研究(ランダム化研究:RCT)が実施されています。この研究の結果、運動とアミノ酸の両方を実行した人たちでの改善率は何も介入しない方々に比べて約5倍となることが判明しました。アミノ酸サプリメントの服用だけでも約2倍、運動だけでは約2.6倍、いずれもサルコペニア状態を改善することが明らかにされています。

サルコペニアを含むフレイルの食や栄養からの予防対策に関する総合的な情報提供源はいくつかありますが、著者がかかわっている「アクティブシニア食と栄養研究会」(https://activesenior-f-and-n.com/)では中年期から高齢期にかけて、活動的な生活とQOLの維持のための適切なたんぱく質摂取を具体的な料理(レシピ)を豊富に紹介し、ロコモティブシンドロームやサルコペニアの予防対策情報を発信していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。

鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
Amazon
高齢者に忍び寄るフレイル問題 特集ページ
日本老友新聞・新聞購読のお申込み
日本老友新聞・新聞購読のお申込み
  • トップへ戻る ホームへ戻る