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医療と健康

2021年01月27日

高齢期の転倒・骨折

高齢者においては、加齢に伴う心身の機能低下、特に身体的(運動)能力の低下、なかでも加齢に伴って足腰の筋肉量が減少する「サルコペニア」によって、転倒が発生しやすくなります。高齢者の不慮の事故の代表的な転倒に関する研究も国内外で数多く行なわれています。それらをまとめてみますと65歳以上の普通に在宅で暮らしている高齢者の約20%の方が少なくとも1年間に1度は転倒すると報告されています。わが国の全国調査による転倒の発生の調査でも、おおよそ1年間での転倒の発生率は20%程度ですが、年を取るにつれその発生頻度は上昇することが明らかになっています。特に後期高齢者の女性の場合には、30~40%もの方が1年間に1回以上、転倒を経験されています。高齢女性の方は特に要注意ということになります。一方、施設高齢者では地域高齢者に比べて転倒発生率はさらに高く、地域高齢者のほぼ2倍の年間転倒率にのぼると考えられています。もちろん、施設の種類や、施設の入所条件、入居高齢者の健康度の違いなどにより発生頻度は異なっていますが、入居者ご本人の体力が低下していることや、サルコペニアが進行していること、そしてフレイルとなった方々が多いことなどが原因ですが、さらに加えて施設での環境が影響している可能性は大きく、例えば、手すりの設置や滑りにくい床面の採用、そして何より職員の転倒予防に対する取り組みの在り方など、転倒事故防止のための種々な対策が必ずしも十分でない施設で頻度が高くなる可能性が高くなります。また、施設高齢者の方々はフレイルの状態が進んでいる可能性が高いために、転倒による骨折や活動性の低下をきたしやすく、歩行困難や寝たきりになる危険性の高いことも知られているのです。

転倒の危険因子(=原因)はさまざまです。転倒は女性に多く、また、一般的に加齢とともに発生頻度が高くなることから、加齢(年齢)と性(女性)は主要な危険因子と考えられていますが、しかし、この二つの原因は変えることができない「不可変的な危険因子」ということができます。一方、日常生活できちんと気を付けておくべきことや適切な介入などによって変えることのできる「可変的な危険因子」もたくさん知られています。中でも、最大公約数的に得られている危険因子として、①転倒の経験の有無(「過去1年間での転倒の既往」)、②筋力やバランス力の低下、③歩行能力(あるいは脚運動能力)の低下、④服用薬剤(特に睡眠剤や降圧剤)の有無などをあげることができます(表)。これらの危険因子は、転倒予防の対策に際し、皆さん自身で具体的な対策を取ることのできる要因つまり自分で予防対策を講ずることができることから重要な要因と考えられているのです。中でも、「過去1年間での転倒経験」はその後の転倒に対するきわめて強い予知因子で、高齢期に一度転んだ人はまた再び転ぶ可能性が高いということを意味しています。この最近の「転倒経験」は、ほかのさまざまな要因の影響を調整しても、転倒する危険性(オッズ比)が高く、下表のように転倒経験のない高齢者に比べておよそ2倍~7倍と報告されています。高齢者の転倒経験は自分でもよく覚えていることですし、その把握はきわめて簡単な質問によって得られる情報でもあり、容易に転倒・骨折の危険性を持つ高齢者を把握できる可能性が高いと言えましょう。是非とも最近転倒した方は日常でも十分な注意をしてください。

表 転倒の危険因子( Tinetti; 2010 より引用改変)
危険因子 報告数 修正オッズ比
過去の転倒歴 16 1.5-6.7
バランス障害 15 1.8-3.5
筋力低下(上肢または下肢) 9 1.2-1.9
視力障害 8 1.7-2.3
薬剤(4剤以上または向精神薬) 8 1.7-2.7
歩行障害 7 2.7

高齢者、特に女性高齢者では骨粗鬆症の有病率が高く、転倒を起こすと骨粗鬆症性による骨折が発生することが少なくないのです。このような骨粗鬆症性骨折は、背骨(下部胸椎~腰椎)、前腕の骨(肘や手首)、上腕骨(肩の近く)、そして大腿骨(頚部;足の付け根)などに発生します。中でも大腿骨頚部骨折はわが国の高齢社会の進展とともに患者数が著しく増加している、非常に重篤な骨折といえます。この大腿骨頚部骨折に関する全国調査(2007年)では男性約31,300人、女性約116,800人と推計され全体では年間15万件近くのの発生が推定されています。年齢別の人口10万人当たりの発生率で見ますと60歳代では男性4.81、女性8.11, 70歳代ではそれぞれ18.12および39.71となり、80歳代では61.03,および157.14, さらに90歳代となると男性146.62, および女性313.58 と各年齢群ともに女性に圧倒的に多く、高齢になるほど発生率は著しく増加していることが分かります(図)。このような大腿骨頚部骨折では入院―手術―リハビリテーションそして退院となりますが、受傷後12ヶ月を経て自立していたのは約半数(48.0%)と報告され、要介護状態となる高齢者も少なくないなど、その後の日常生活に対する負の影響も大きく、また死亡率も増加することが知られていて、ある意味で恐ろしい骨折ということができるでしょう。

転倒骨折予防のためには、下肢の筋力を鍛えることや、バランス能力を向上させることなど、運動機能を維持しておくことが重要となります。特に高齢者で転倒を経験した場合には各市町村などで取り組まれている転倒予防教室などの利用も薦められます。わが国における転倒予防の運動介入による科学的の精度の高い(ランダム化研究などの)研究からも、転倒予防教室等での下肢筋力や歩行能力の強化によって、1~2年間の転倒予防のリスクがおよそ半減されることが明らかにされています。ぜひ皆さまも、転倒を「年のせい」などと思わずに、普段から気を付けていただきたいと思います。

図 折茂 肇(2019 年)「健康長寿ネット」(長寿科学振興財団)より引用

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 老年学総合研究所 所長、大学院教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
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老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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