コラム
江戸の携帯食 ~おにぎりはみんな大好き!~
(本稿は老友新聞本紙2020年4月号に掲載された当時のものです)
日本列島がピンク色に染まる美しい季節の到来です。困難に立ち向かう私たちに桜は今年も変わらずに希望の花を咲かせてくれます。年に一度の花見ですからそれぞれに工夫をして楽しみましょう。ここぞとばかり大騒ぎするだけでなく、静かに愛でるだけで花の美しさを一層感じることが出来ると思います。
お花見と言えば「お花見弁当」。今はあらゆるお店で見ているだけでも幸せになる多種多様、彩り豊かな季節限定商品が販売されています。
お弁当の代表選手は「おにぎり」。今はすっかり〈買うもの〉になっているようです。くるんであるフィルムを剥し、パリパリの海苔の食感と磯の香りが食欲をそそり、バリエーションも豊富で手軽に楽しめます。
おにぎりに海苔が巻かれるようになったのは、海苔の養殖が始まって生産量が増えた江戸時代です。和紙の製法を応用した紙状の「板海苔」が開発され、元禄年間に海苔を巻いたおにぎりが登場しました。これがほぼ現代のおにぎりになっています。海苔を巻くことでご飯が手に付かない、栄養のバランスも良くなるなど先人の知恵です。おにぎりの形もいろいろですが、三角形が誕生したのは江戸時代といわれています。一つの説では、東海道の川崎宿で作られ始めたものだとされています。
八代将軍德川吉宗が江戸に向かう際、多摩川が増水し川崎宿で足止めとなり、田中本陣の主人が吉宗をもてなすために、三角形のおにぎりを三つ丸盆に並べて德川家の家紋である葵紋に見立てて出したところ、吉宗はたいそう喜んだといいます。
この頃からおにぎりは弁当としても普及していきました。座りが良くて持ち運びが便利、三角は角があって食べやすい。具も入って海苔にくるまれ栄養的にも優れているおにぎりは武士から庶民にも広がっています。
竹の皮でくるんだおにぎりと沢庵を想像する方も多いと思いますが、これは江戸時代の旅人の携帯食の原型です。持ち運び便利なことと、殺菌のためで、これも先人が経験的に知っていたのでしょう。
では、江戸時代のおにぎりは具体的にはどのようなものだったのでしょうか。江戸時代後期の風俗をまとめた『守貞謾稿』には、「おにぎりは塩水を手に付けて握って作るけれど、京坂は俵型が多くて黒ごまをまぶす時もある。江戸では円形又は三角形が多く、大きさは4・5センチ、厚さは15ミリ位が多い。握った後にはたまに炙ることもある」という内容の記述があります。
炙るというのは今の焼きおにぎり。衛生面ではあまり良くない時代でしたから殺菌効果を考えてのことでしょう。
初代歌川広重の『東海道五十三次細見図会藤沢』には富士山を背景にした旅人が、美味しそうな三角おにぎりを頬張る姿が描かれています。
この絵には海苔は巻かれていませんが、おにぎりは平和な江戸時代に今と変わらない大衆食として確立したのです。
(本稿は老友新聞本紙2020年4月号に掲載された当時のものです)
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