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映画のグルメ | 斉田 育秀

映画のグルメ | 斉田 育秀

2020年01月08日

№3男はつらいよ(第1作:男はつらいよ、第15作:寅次郎相合い傘)―侘びしさ表現した「ラーメン」と憧れの「メロン」への執着がノスタルジーを誘う―

『男はつらいよ』パンフレット

話は変わって食べ物のお話。1作目と15作目に共通の食べ物は「ラーメン」だ。華僑が持ち込んだ、引き伸ばす意味を持つ“拉”の麺、「ラオミン」が語源といわれる。関東は醤油・九州は豚骨・札幌は味噌と、味・具材は地域色が強い。

関東系醤油ラーメンは明治43年浅草の来々軒で、横浜中華街出身のコックが作ったのが元祖。当時は“支那そば”、戦後は“中華そば”、昭和30年代に“ラーメン”と変遷、昭和30年代前半の横浜では一杯35円だった。チャーシュー(正式には焼き豚、最近は煮豚が多い)、支那竹(メンマ)、なると、ほうれん草、海苔の醤油ラーメンに胡椒をかけて食べるのが基本である。

45年ほど前になるが、尾道の「朱華園」という店で作家・壇一雄が絶賛したというラーメンに出会い、その美味しさに驚嘆したことがある。これは刻んだ背脂入りで、今でいう「コクまろタイプ」のはしり。ラーメンブームが行き過ぎてコクに飽きた昨今では、チキンベースに上品な醤油のシンプルタイプが懐かしい。

「寅次郎夕焼け小焼け」でも登場するラーメンは、どちらにしても侘びしい場面に良く似合う。アミノ酸いっぱいの「ラーメン」は、日本人の根源的味覚を刺激する郷愁食で、長期間断たれると渇望されるメニューのひとつである。パリやロサンゼルスでの「ラーメン屋」の繁盛ぶりや、訪日観光客のラーメンへの“熱烈な嗜好ぶり”を見ると、その受容性はワールドワイドのようだ。インスタントラーメンは世界中に広まったが、「本家・ラーメン屋のラーメン」が世界を席巻するのも、間もないことであろう。

さて、「相合い傘」では何といっても「マスクメロン」だ!寅さんがもらったメロンを、彼の分を入れずにカットしたことがとてつもない大騒動にエスカレートしていく、ハリウッド喜劇顔負けの名場面があり、これは必見である。

マスクメロン(アールス・フェボリット)といえば昔から「静岡のクラウンマーク」をもって最上とするが、最近は廉価版のアールスメロンが店頭を賑わせている。時折高級品に比べ遜色のない絶品モノに当たることがあり、楽しみが増えた。

“おいちゃん”を森川信が演じた頃までが良く、以後数作品を除いて“偉大なるマンネリ映画”といわれ、バブルの崩壊と共に終焉を迎える。最終回の寅さんは疲れ果て哀れであった。15年ほど前だが本稿の原文にあたる拙文に、「一度マドンナ総登場編を企画したらと思うが、渥美を“あの世”に迎えに行けても、戻って来られないのが難点だ!」と書いたことがある。

そしたら何と!この度「男はつらいよ お帰り 寅さん」が、50作目の記念作品として製作され、寅さんはあの世から戻りマドンナも総動員されるようだ。まさに「山田マジック」のなせるワザで、ファンにはたまらないほど嬉しい話だ。

ということで最後にひとつトリビア(どうでもよい些細なこと)を。30年近く前の話だが、少しばかり接触のあった松竹の山根成之監督(「同棲時代」「愛と誠」「さらば夏の光よ」)の葬儀の場での話。見事な弔辞を大島渚監督が読まれ、いよいよ見送りとなった。

すると偶然だが私は山田洋次監督と隣同志になった。私にとって監督は、作品やTV・雑誌などで見るイメージから“優しそうな(少々田舎っぽい)おじさん”という認識であった。ところが何と!実物は黒か濃紺のトレンチコート?を着ており、“きりっとキザなジェントルマン”に見えた。

基本的に映画監督はキザな人が多いと考えているし、キザな人が作るから映画はお洒落で面白くなる。山田監督の師匠・川島雄三も、同僚であった松竹大船の大島渚・篠田正浩・吉田喜重など、みなキザな部分をどこかに感じる。そこでその時!山田監督に今まで感じなかったキザな部分を見て、別の意味で期待が湧き益々ファンになった。

ところで、山根監督の逝去された日は12月27日であった。偶然か「男はつらいよ お帰り 寅さん」の公開日も12月27日である。この偶然に天国の山根監督も、「映画の大ヒット」を願って“やまね〜”ということになりそうだ。

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斉田 育秀(さいた いくひで)
  • 映画史・食文化研究家

斉田 育秀(saita ikuhide)1948年横浜生まれ。1973年東京水産大学(現東京海洋大学)水産学部製造学科卒。同年キユーピー株式会社入社。「醤油ベースドレッシング」の販売戦略を立案、ブームの仕掛け人となる。1992年親会社にあたる株式会社中島董商店に移り商品開発部長。2004年よりグループ会社アヲハタ株式会社の常勤監査役となり、2010年退任し2013年まで株式会社トウ・アドキユーピー顧問。その後、株式会社ジャンナッツジャパンの顧問を経て、現在東京海洋大学・非常勤講師(魚食文化論)。この間海外40余カ国、主要130都市を訪れ、各地の食材・料理・食品・食文化を調査・研究する。

映画のグルメ | 斉田 育秀 ―映画と食のステキな関係―
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サヨナラおじさん(映画評論家・淀川長治氏)の門下生が書いた、名作映画と食べ物のステキな関係。食品開発の専門家がユニークな視点で解説する、映画と食べ物の話。厳選された映画史上の名画63本(洋画43本・邦画20本)を取り上げる。
斉田育秀・著 / 五曜書房・刊 
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