高齢者のための情報サイト【日本老友新聞】

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医療と健康

2020年08月27日

超高齢社会のリアル -健康長寿の本質を探る- 連載12「健康情報に強くなりましょう!」

季節は「立秋」を過ぎましたが、日本全国猛暑が続いています。皆様も、コロナ対策に加え熱中症対策を取らなければいけない時期となり、一段と健康に気を付けなければならなくなりました。熱中症対策として、水分の補給はもちろんですが、自宅の中で適切にエアコン(クーラー)を使用して、特に夜間の温度に気を付けましょう。そのためにもテレビなどでの熱中症情報と予防対策を確認するように気を付けたいものです。

今回のテーマはこんな時期だからこそ、皆様にお伝えしたい話題です。タイトルは「健康情報に強くなりましょう!」としています。世の中には本当にさまざまな健康情報が溢れています。コロナで多くの人々が感染し、苦しんでいる状況のなかで、ある国の大統領はコロナには「マラリアの治療薬が効く」とか、別の国の大統領は「ウォッカ飲めば大丈夫」といって、その二人ともコロナに感染してしまったという笑えない話が伝わっています。日本でもある知事さんがポピドンヨード系うがい薬がコロナの予防の可能性があると話したところ、うがい薬がスーパーやドラッグストアからすぐに売り切れる状態となり、発言の科学的根拠を巡っても多くの批判をあびたのも記憶に新しいところです。これらの発信はいずれも立場のある方々の発言でありながら、何の科学的根拠もない、あるいは科学的に厳密な検証を経て出された結果ではない、いわば「マユツバ」の類のものなのです。

実は私達の日常にはテレビ、新聞を初めとして、非常に多くの健康情報が溢れています。「ヒザの痛みに効果がでる」、「脳がスッキリ・認知症に効く」、「ガン予防にお試しください」等々、皆様も毎日のように御覧になっていることと思います。しかし!です。これらの健康に「効果がある」、「治す」など書かれている製品やサービスのなかには、先程の「マユツバ」の類が少なくないのです。もっと厳しい言い方をすると、これらの有効性をうたった商品のほとんどは、科学的根拠(「エビデンス」といいます)や信頼性の低い、怪しげな商品といっても過言ではありません。実際7月中旬に大阪府警がある健康食品の通販会社の社員などを「薬機法」と呼ばれる法律に違反したとして、逮捕される事件があったばかりです。この事件では、「肝臓の病気を予防する」と宣伝してインターネットを通じてカプセルのサプリメントを販売したものですが、サプリメントには科学的な有効性はないにもかかわらず、宣伝では、体験談のような第三者を装った感想を載せ、いわば捏造した体験談として商品を販売したとして逮捕されたものでした。

テレビなどでは、勿論商品を提供する(売る)側は、その辺は用心して、例えば画面の片隅に「これはあくまでも個人の感想であり、効果・効能を現すものではありません。」などの文言を(まるで言い訳のように)付けていますが、あまりに小さな文字で読み取ることが難しく、視力の衰えた高齢者の方にはすぐには読めないようになっているのもずるい気がします。もちろん、中にはしっかりとした(厳密な)科学的手続きによる検証を経て、その有効性を分かりやすいグラフに示して、エビデンスとともに販売している商品もありますが、そのような商品は非常に少ないのが現状です。

実例を少し上げてみましょう。例えば「膝や腰の痛みには当社の飲み薬○○が良く効きます」という宣伝と、実際にそれを服用して痛みが軽減された経験のある5人のお客様の声が一緒に宣伝されていたとしましょう。でも、このような宣伝には大切な情報がいくつも抜けていることにお気づきでしょうか?

1番目は、「そもそも膝や腰の痛い方何人が○○を服用して(分母)、実際に何人の方が本当によくなったのか(分子)?」ということです。10人中5人(50%)なのか、百人中5人(5%)なのか、千人中5人(0.5%)なのか、あるいは一万人中たった5人なのか? これだけの情報でもとても大事なはずです。

2番目は、このようなお薬は痛みのある人にとっては、良く効いたように感ずることがしばしば見受けられます。そのために同じような痛みのある方を2つのグループに分け、一方には○○薬を、もう一方には(外見が全く同じような)ニセの薬(「偽薬」といいます)を同じ期間服用してもらい、その効果に本当に差があったかどうかという検証も必要です。

また、3番目は、膝や腰の痛い方といっても千差万別です。急性期で痛みの強い方もいれば、慢性期で痛みも弱くある程度生活も自立している方、若い方、高齢の方、男性、女性……。対象者を選ぶ際にそれらの方々を適切に選んだかどうか(「サンプリング」といいます)も大切な問題です。

さらに4番目として、商品やサービスによっては原因と結果(「因果関係」)が正しく解釈されているかも重要なポイントとなります。よく「運動しているといつまでも元気」というような文言を耳にしますが、これは「運動しているから元気」なのか「元気だから運動している」のか因果関係が不明なことも良くあります。このような因果関係を明確にするためには、その調査が、ある一時点の調査(「横断調査」といいます)なのか、時間の経過も含めた二時点や、三時点の調査(「縦断調査」といいます)なのかをきちんと区別することが求められるのです。

厚生労働省では、「統合医療に係る情報発信等推進事業」(eJIM)と呼ばれるサイト(https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint/index.html) を紹介しています。このサイトでは「情報に接するときには、「本当かな?」と立ち止まって問いかけ、安易に答えを出さない…そうした思考の習慣を、これから身につけていきましょう。」として下表のような「情報を見極めるための10か条」を紹介しています。それぞれの内容についてやさしく解説してありますので、ぜひ一度ご覧頂ければと思います。

[表]健康情報を見分けるための10か条
1 「その根拠は?」とたずねよう
2 情報の偏りをチェックしよう
3 数字のトリックに注意しよう
4 出来事の「分母」を意識しよう
5 いくつかの原因を考えよう
6 因果関係を見定めよう
7 比較されていることを確かめよう
8 ネット情報の「鵜呑み」はやめよう
9 情報の出どころを確認しよう
10 物事の両面を見比べよう

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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