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医療と健康

2020年12月23日

ワクチンについて

コロナの流行が収まりません。
全世界では今年の年末の段階で約7,500万人もの人々がコロナウイルスに感染し、死者も170万人にもなろうとしています。恐るべき大流行(パンデミック)となってしまいました。
日本でもこれまでは国民の皆さんの努力もあり、比較的よく感染を制御してきたようにも思いますが、ここにきて(「コロナ疲れ」とも言われるように)感染者数が急速に増加している状況(約20万人)となり、東京なども陽性者が1日に1,000人近くになるなど、流行の第3波とも考えられています。これからもこの流行はいつまでもしぶとく蔓延し続けると思われます。

そんな中で、少しだけ明るいニュースも入ってくるようになりました。
コロナウイルス対策の切り札、ワクチンの開発と製造が、ようやく実現化してきたようなのです。イギリスやアメリカなどでは一般の方への接種が開始されたようです。実は、これまで多くの感染症に対してワクチンが人類にもたらした恩恵は計り知れないものがあるのです。

ご存じかもしれませんが、最初にできたワクチンは今から200年ほど前に、英国の医学者エドワード・ジェンナーが、牛にできる天然痘(「牛痘」といいます)の膿(ウミ)を子供に接種するという画期的な方法で、人の天然痘(「疱瘡」とも言います)を予防することができるようになったのです(図)。ワクチン(vaccine)という言葉はラテン語の「雌牛」(vaca)を意味する言葉で、乳牛の乳房にできる牛痘の水疱(膿)を利用してできたことから由来しています。牛1頭から20万人分の牛痘苗ができたそうです。日本には江戸時代の幕末にオランダから牛痘苗が長い航海を経て運ばれ、当時死亡率は20~40%といわれ、治っても顔にあばたを残すため、人々からは非常に恐れられていた痘瘡の流行がようやく収まるようになったのです。私たちは、すべて子供の時期に天然痘のワクチン(種痘ワクチン)を接種しているために、今日では天然痘に誰一人として罹ることがなくなりました。いかに適切なワクチンが有効であるかを物語っていますね。

図 エドワード・ジェンナーと種痘

話を新型コロナウイルスのワクチンに戻しましょう。
令和2年11月末の現時点では、アメリカや英国の大手製薬企業が中心となって開発した新型コロナウイルスに対するワクチンは、これまでの本物のウイルスを加工するという一般的な方法とは異なり、単にウイルスの持っている遺伝子情報(RNAといいます)を人工的に合成してワクチンとして利用する方法を用いています。そのためワクチン作成に時間が短くて済み、理論的には安全と考えられていますが、一方でRNAは壊れやすく保存や流通が難しいことや、長期的な有効性や安全性についてはまだよくわかっていないなどの疑問点もいくつか指摘されています。今後、何百万人、何千万人に接種した後のデータが重要となりますが、やはり慎重に進めていかなければならないと思われます。

また、(まだ論文化はされていませんが)メディアに報道されている臨床試験の結果では、多数の一般人を対象とした試験(これを「第III相試験」と呼びます)で95%の有効性があったとされています。これはワクチンの接種がなければ100人が感染するところ、ワクチンを接種した場合には5人のみが感染する(すなわち、95人が感染を免れる=95% の有効性がある)ということを意味しています。このような第III相試験では非常に厳密な手続きを経て実施されていますので、信頼性はかなり高いと思われます。

今後も新型コロナウイルスの流行はしばらくは収まらず、むしろ増加する可能性が高いと思われます。個人的に日常生活での「3蜜」を避けたり、「マスクを常用」したり、頻回に「消毒」に努めたりという感染防止対策にも限界があります。近いうちに、わが国でも医療従事者や高齢者など感染の危険性や重症化の可能性などリスクの高い方々から順次ワクチンが摂取されていくと思われます。まだまだ副作用(接種によるショックなどの有害作用)など未解明な部分は残されていますが、よく知られているように、高齢者では新型コロナウイルス感染時の重症化が発生しやすく、死亡率もかなり高いことを考えると、やはりワクチンは(インフルエンザワクチンと同じように)事前に接種し、万が一の時に備えたほうが良いと思われます。皆さんもぜひ、今後のワクチンの安全性や有効性に十分注意して、できれば前向きにワクチン接種を考えていただきたいと思います。

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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