高齢者のための情報サイト【日本老友新聞】

老友新聞
ルーペ

医療と健康

2021年07月29日

「アデュカヌマブ???」

「アデュカヌマブ、アデュカヌマブ・・・」なにやら、アラブの呪文のような、舌を噛みそうなほど発音しづらい言葉ですね。実はこの「アデュカヌマブ」というのは、日本とアメリカの製薬メーカーが発売したアルツハイマー病の新しい治療薬の名前なのです。これまで30年以上に渡って世界中の製薬企業や研究機関などが認知症の代表的な原因疾患であるアルツハイマー病を根本的に治療できる薬やワクチンの開発に挑み競ってきました。しかし、その壁は厚く、これまで開発薬(ワクチン等も含めて)は全て失敗に終わり、巨額の研究開発費も全て水の泡となった訳で、アルツハイマー病治療薬はもう出来ないのではないかと言われる程、暗礁に乗り上げた感があったのです。しかし、今回のアデュカヌマブはアメリカ政府の公的機関がその有効性を承認したということで、一気に期待が高まったようです。しかし米国内にも異論・反論があり、その有効性に疑問が残っていることや、日米両国ともに十分な臨床研究がなされていないという批判も大きいようです。実際、日本ではこれから国内の臨床試験が実施され、この試験の結果次第では承認取り消しもありうるという状況です。いかに不確定要素の大きい薬であるかがお分かりいただけるかと思います。

アルツハイマー病は今からおよそ120年程前にドイツの精神科の医師、アロイス・アルツハイマーによって発見され命名された病気です。彼が診ていた患者さんのなかに、アウグステ・Dという名前の51歳の女性がいましたが、彼女は記憶力(自分の名前や昨日食べた夕食のメニューなどを記憶しておく能力)や見当識(今日が何月何日で、今どこに居て、何をしているのかを理解する能力)などがひどく障害されている患者さんでした。アルツハイマー医師は彼女の示す病気に強い興味を持ったのです。その理由は、アウグステ・Dの病状は他の入院患者さんとは、明らかに異なっていて、当時多かったてんかん、ヒステリー、(梅毒による)進行麻痺などとは明らかに違う病気であることが疑われたのです。その後アウグステ・Dは亡くなり、アルツハイマー医師はその脳を当時の最新機器であった顕微鏡を用いて丹念に調べ、脳(特に大脳皮質と呼ばれている領域)が著しく萎縮し、顕微鏡で見る神経細胞ではその内部の「神経原線維」と呼ばれる部分が異常で病的な変化を示しているなど、(今日でいうところの)アルツハイマー病の脳内の特徴的な病理学的変化を発見し、正確に記載し、報告したのです(下図)。

図 アルツハイマー病の発見者アルツハイマー博士(左)と最初の患者さん(右上)。
右下は、アルツハイマー病に侵された脳(赤い矢印はAβに集合した「老人班」と呼ばれる変化、黄色い矢印は神経原繊維の変化を示しています)

今日では、このような神経細胞の破壊はアミロイド・ベーター(Aβ)と呼ばれる異常なたんぱく質が脳内に留まって発生することが原因だと考えられています。 実はアルツハイマー病での脳内の変化はかなり若いときから少しづつ生じていることがわかっています。Aβは認知症が発病する30年も40年も前から徐々に脳内に蓄積し始めています。Aβが溜まってゆき、徐々に脳の神経細胞を破壊し、ついには脳内のあらゆる部分で脳神経細胞が死滅し、記憶をはじめとして様々な認知機能を傷害してしまうのです(下図)。

ですからこのAβの発生や蓄積を予防したり、除去したりすることが、アルツハイマー病の最大の予防・治療目的だったのですが、先に述べたように、これまで多くの薬やワクチンなどは残念ながら効果がないあるいは副作用が大きいなど、全て失敗してきたのです。

今回新たに開発された新薬、アデュカヌマブは完全にアルツハイマー型の認知症の進行を止めることは出来ないようなのですが、脳内に蓄積したAβを減らし、認知機能の低下を穏やかにする効果が期待され、いわば病気が悪化するスピードを緩やかにすることは十分期待できると言われています。特に、認知症の予備軍とも言われる「軽度認知障害」(一般的には「MCI」と呼ばれています。)の方々に使用した場合は、認知機能の低下や認知症への移行は約2割抑えられたと報告されています。開発した製薬メーカーによれば、アデュカヌマブを月1回点滴するだけで、患者さんへのあまり大きな負担ではないようです。ただ、価格は相当に高く(年間500~600万円?)保険適用になるかどうかもまだ判っていません。また日本では上で述べたように、MCI高齢者や初期のアルツハイマー病患者さんを対象とした十分な臨床研究に基づく有効性などもまだ十分とは言えず、今後の課題もたくさん残されていることも事実です。しかし、アデュカヌマブがこれまでにない新しいアルツハイマー病の治療に期待される効果をもったお薬である可能性もあり、今後に期待できるのではないかと思われています。

この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。

鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 老年学総合研究所 所長、大学院教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
Amazon
高齢者に忍び寄るフレイル問題 特集ページ
トップへ戻る ホームへ戻る