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コラム

2021年07月29日

「時間」~約束の時間を守るのは重要なコミュニケーション

「やっぱりB子さんは遅刻や……」

学生時代から、待ち合わせには遅刻ばかり。必ず遅刻する。せっかく楽しみにしていた映画もすっかり不愉快な気分で見たものだ。
私はOL生活をしていたので、時間だけはきびしく教育された。営業の人と約束していても、遅刻が原因で話がまとまらなかったり、愛艇に不快な思いをさせたり、これではビジネスは失敗だ。
仕事の場だけではない。友人との約束も同じことが言える。5分、10分、約束の時間より早く行って待つことにしている。まして年長者や上司との時間は特に。時間は多くの結果に繋がる。これは相手に好印象を与えることに繋がる。

私の知人でもう一人、時間の守れない人がいる。その人は、慌てて入ってきて

ごめん、タクシーがつかまらなくて」

彼女は年中こう言うのだ。

私は美術館と映画は必ず一人で行く。自分の好きな時間に好きな場所で見たいからだ。遅刻されて嫌な思いをしたまま、映画や美術鑑賞は出来ない。これは私の特徴だ。

実は約束の時間を守るというのは重要なコミュニケーションだ。どんなに小さな約束でも守れる人は人間関係も良好だ。
いつも遅刻する人は誘ってもらえなくなる。ひとりぼっちになる人は、その人の生き方にも現れている。

Eさんは70歳過ぎてインターネットを習うことに決めた。

「えらいなあー。やめたらあかんえ」

と激励した。
忘れた頃にEさんから電話があった。

「先生、インターネットの教室、やめることにしました」
「あんなに強い決心したのに、なんでや」

実はEさんの教室にEさんと同じ75歳の生徒Kさんが受講していた。ところがその生徒が手のかかる生徒で、まず始業時間に遅刻する。
講師の先生は優しい人で

「もう10分待ってあげましょう」

と言って、始めない。
やっと大きな荷物を持ってKさんが来る頃には不快な空気。さて授業が始まっても講師はKさんに手をとられて全体を見られない。

それにKさんはとてもおしゃれ。いつも素敵なブランド物を身につけている。私もSNS関係はダメだから人の事は言えないが、授業が終わったあと、教室のビルの2階にあるお洒落なコーヒーショップに皆で立ち寄るそうなのだが、そこにはKさんの姿がないそうだ。教室の仲間が誘わないのだ。

「4月でやめようと思います。それでもインターネットの簡単なものやったら使えるようになりましたわ」
「続けなあきませんなあ」
「私も続けたかったけど、Kさんの教室は落ち着きませんし、もうひとつ近所にありますから、そこへ行きますわ」

向上心は強い。新しいマンションに引っ越したこともあって、75歳はますます意欲的だ。キャッシュレスの時代を生きぬける人だ。
そして自宅から駅まで歩くその足は、Eさんに健康を運んでくる。幸せな人だ。

(本稿は老友新聞本紙2020年2月号に掲載した当時のものです)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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