高齢者のための情報サイト【日本老友新聞】

老友新聞
ルーペ

医療と健康

2021年05月26日

「排尿障害」男性と女性で異なる原因とは

排尿のトラブルというものは「命にかかわるものではない」「歳のせいだから」「人に知られるのが恥ずかしい」等の理由から、家族や医師にも相談しにくく、そのまま放置してしまうことが多いのではないか。しかし、失禁が怖くて外出を控え、閉じこもりになってしまう可能性もあり、高齢者にとっては非常に大きな問題である。今回は排尿トラブルに関する正しい知識と改善法についてお伝えしよう。

我々は、一日の総量でおよそ1.5リットルもの尿を排泄する。膀胱に貯めておける尿の量は300ml程度なので、一日に4~6回程度もトイレで排尿をすることになる。
何も問題が無ければ、とくに意識もせず、何気なく排尿をしているが、いざ排尿トラブルが起きてしまうと、毎日これだけの回数なので、非常に不自由な思いをすることになる。

排尿トラブルというと女性に多いものかと思われがちだが、実際には男性で悩んでいる人も少なくない。だが、男性と女性では体の構造が異なるために、その症状や原因が異なるという。

排尿の仕組み

まず、排尿をする際、我々の体の中でどのような事が起きているのか、その仕組みを説明しよう。

尿は、腎臓で作られる。腎臓は二つ対を成した臓器で、血液から余分な水分や老廃物を取り除く働きをしており、尿はここで作られる。腎臓で作られた尿は、尿管を通って膀胱に送られ、膀胱で貯められる。膀胱に150ml程貯められると、尿意が脳に伝えられ、「おしっこをしたい」と感じるようになる。

膀胱は、非常に柔らかい袋状の臓器で、尿を貯める事と、尿を押し出す二つの役割をもっている。交感神経、副交感神経という二つの自律神経によって制御されており、交感神経が優位となると、膀胱の筋肉は弛緩し、膨らんで尿を貯める事が出来るようになる。この時、尿を排泄する際の通り道となる尿道の筋肉は収縮して、尿が漏れないようにするという。逆に副交感神経が優位になると、膀胱の筋肉は緊張して収縮し、尿を外へ押し出そうとする。それと同時に尿道の筋肉は弛緩して広がり、尿を出やすくするのだそうだ。このように、膀胱と尿道の働きがうまくかみ合って、尿が排泄されるのだ。

以上のような働きをする膀胱、尿道にトラブルが発生すると排尿トラブルとなるのだが、トラブルの原因によって症状は異なる。

男性に多い排尿障害

男性によく見られる排尿障害の症状としては、お腹に力を入れてもなかなか尿が出ない。出し切るのに時間がかかる。尿の出に勢いがない。排尿後もまだ尿が残っている感覚があるなどだ。

原因は主に二つあり、一つは男性高齢者に非常に多い、前立腺肥大症が原因である。前立腺とは、膀胱の下の尿道の周りを囲むような、ドーナツ型をした臓器である。加齢と共に、この前立腺は肥大し、尿道を狭くしてしまうのだそうだ。これは機械的閉塞と呼ばれる。

もう一つは、機能的閉塞と呼ばれ、前立腺の中の平滑筋という筋肉が緊張、収縮し、同じように尿道を狭めてしまうのだ。
このような場合の治療法としては、前立腺を小さくする薬や、平滑筋の緊張を和らげる薬を使用する。薬で症状が改善しない場合には手術を行なうこともある。最も一般的な手術は、先端にメスを装着した内視鏡を尿道から挿入し、前立腺を削って小さくする方法だ。

女性に多い排尿障害

女性によく見られる代表的な排尿障害は、腹圧性尿失禁である。症状としては、笑ったり、くしゃみをした時、あるいは重いものを持ち上げる時など、お腹に力が加わった際に少量の尿が漏れてしまう。

原因は、尿道や肛門の周囲についている骨盤底筋が弛んでしまうためで、女性の場合、妊娠や出産などで、男性よりも弛みやすいのだそうだ。

治療は、症状が軽度の場合、骨盤底筋を鍛える運動で改善が望めるという。肛門や尿道の周りに力をいれ、きゅっと絞めるようにし、そしてゆるめる。これをゆっくり繰り返す。

ポイントは、力を入れている時間よりも、ゆるめる時間を2倍くらいにすること。2~3秒くらい絞めて、5秒くらいゆるめる。これを一日50回行なうと良い。朝起きた時、布団の中で20回、昼間10回、夜寝る前に20回など、分けて行なっても良い。

もうひとつの運動は、椅子に座ったまま、足を広げたり閉じたりする。次に、足を少し持ち上げて、広げたり閉じたりする。さらに、バスタオルなどを膝の間に挟み、それをぎゅっと絞める。この時、ふとももの内側に力が入る。この力がトイレを我慢する際に必要な力となるそうだ。

肥満でおなかが出ている場合、その重みが骨盤底筋に負担をかけ、ゆるんでしまうという。そのためにも、これらの運動を毎日続け、骨盤底筋の強化と共に、肥満の解消も目標にすると良いそうだ。それでも改善しない場合には、薬物療法や、骨盤底筋を補助するためのメッシュシートを埋め込む手術を行なうという。

排尿に関するトラブルは、自分だけ……と思ってはいけない。実に多くの人が、同じ悩みを抱えているのである。恥ずかしいからといって一人で悩まずに、専門医に相談して、改善に努めてほしい。

髙谷 典秀 医師
  • 同友会グループ 代表 / 医療法人社団同友会 理事長 / 春日クリニック院長 / 順天堂大学循環器内科非常勤講師 / 学校法人 後藤学園 武蔵丘短期大学客員教授 / 日本人間ドック・予防医療学会 理事 / 日本人間ドック健診協会 理事 / 日本循環器協会 理事 / 健康と経営を考える会 代表理事

【専門分野】 循環器内科・予防医学

【資格】 日本循環器学会認定循環器専門医 / 日本医師会認定産業医 / 人間ドック健診専門医 / 日本内科学会認定内科医 / 医学博士

【著書】 『健康経営、健康寿命延伸のための「健診」の上手な活用法』出版:株式会社法研(平成27年7月)【メディア出演】 幻冬舎発行「GOETHE」戦う身体!PART4 真の名医は医者に訊け(2018年6月号) / BSフジ「『柴咲コウ バケットリスト』in スリランカ 人生を豊かにする旅路」(平成28年1月) / NHK教育テレビ「きょうの健康」人間ドック賢明活用術(平成27年5月) / NHKラジオ「ラジオあさいちばん 健康ライフ」健康診断の最新事情(平成25年11月)

この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。

高齢者に忍び寄るフレイル問題 特集ページ

健康への不安や悩みはありませんか?

健康にまつわるご相談を募集しております。医療法人社団同友会理事長がわかりやすくお答えをいたします。

読者投稿の募集はこちら


日本老友新聞・新聞購読のお申込み
日本老友新聞・新聞購読のお申込み
  • トップへ戻る ホームへ戻る