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コラム

2017年11月20日

礼儀は親から子へ、その土地の空気と共に伝えられる…「言葉の意味」<市田ひろみ 連載20>

私はこんな年(内緒)になっても、今も現役で仕事をしている。
きもののこと、京の歴史のこと、お店のこと、衣・食・住のこと。
何でも屋さんで、紹介している著作も90冊を超える。
その内、レストラン紹介のものは、台湾で翻訳されて販売されている。

2月のある日。私が時々行く小さなおばんざい屋さんに行ったら、台湾の観光客が5人、カウンターに並んでいて、真中に
『大人の京都路歩き(台湾版)』
が置いてあった。おかみさんが
「この人よ」
と言ったら、
「ウッソー、ホント?写真良いですか?」
「ウワー、キャー」
「今日もこの本を見て来てくれはったんや。先生、おおきに」
と、おかみさんも上機嫌。こんなにめずらしいこともあるんだと思いつつ、私の晩御飯は30分も遅れた。

さて、食事もすんで、帰ろうとしたら
「すみませんでした」
「ありがとうございました」
「思い出になりました」
「写真ありがとうございました」
5人は、それぞれ礼を言ってくれた。
台湾へ帰っても、彼女達は京都の思い出として、私と本のことをしゃべってくれるだろう。

御礼の言葉は、京都では「二度礼」といって、今日、何か頂いたら
「ありがとうございました」
翌日、
「昨日はありがとうございました」
次に、
「先日はありがとうございました」
「いつぞやはありがとうございました」
礼儀は、感謝の気持ちをこめて、ゆきとどいた挨拶ができるようになりたいものだ。

学問とともに、礼儀はてゆく。これはそのまま、ゆきとどいた京都の美風として、京都の空気として、伝えられてゆくものだろう。

以前、卓球の福原愛ちゃんが結婚をされた時、白地にピンクや紫の、百花の総しぼりの振袖が似合っていて可愛かった。
しかも、御両親に対する尊敬や、旦那様に対する心遣いもゆきとどいていて、久々に気持ちの良い記者会見だった。
ひとつひとつの言葉がていねいだった。愛ちゃんが日本女性を代表して、日本文化を魅せてくれたのもうれしかったけど、スピーチの日本語もうれしかった。

日本人の美徳は、いつの間にかくずれつつあるが、台湾の人は、今もていねいだ。礼儀正しいし、昔の日本が残っているという感じだ。

私がテレビを見ていて気になるのは、男女カップルの表現だ。
「モトカレ」
「モトカノ」
前の彼氏、前の彼女の事だ。平気でテレビに顔を出して、
「モトカレ、30人くらいかな?」
「それ、どうしたの?」
フェンディのバックだ。彼女は彼に聞かれて
「モトカレのくれたやつや!!」
インタビュアーが彼氏に
「気になりませんか?」
と聞いたら、彼氏の方は
「別に……?」
年長者がハラハラすることはない。言葉は生きものだから、時代に合わせて動いてゆくのだ。(老友新聞社)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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