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コラム

2019年12月06日

車掌さんからの粋な気遣いで旅はご機嫌なものに!…新幹線からの臨む「富士山」

何と言ったって、新幹線で上京する時は、CかDの席をとる。進行方向左側に富士山が見えるかどうか。夏はほとんど絶望的だけど、冬の寒い日、そして晴れている日は希望が持てる。
その日も早朝ののぞみで東京へ向かっていた。
「もしかして!!」
名古屋を出て、静岡に向かう。やっぱり大正解。美しい、雪をかぶった富士山。よかった、何か良いことありそう。
車内でも、気づいて写真を撮っている人もいるし、残念ながら気づかず寝ている人もいる。

突然、車内放送が始まった。
「お知らせいたします。只今、進行方向左側に、美しい富士山が見えます……」
なんと、こんなに美しい富士山は久しぶりなので、親切なお知らせに嬉しくなった。
私は通り過ぎようとする車掌さんに
「今の放送、良かったわ。何よりのおもてなしですね」
と言ったら
「いやー、そう言ってもらえたら嬉しいです。私は東海道線一筋でやって来ましたが、今日のような美しい富士山は久しぶりです。でも、叱られることもありますので……」

??
「寝てるのに、うるさい放送するな!!」
ということなのか。

    ◇

京都府北部、丹後半島は、きものの生地、丹後ちりめんのふるさとだ。仕事柄、訪ねることも多かった。

大江山 いく野の道の遠ければ まだふみもみず 天橋立(小式部内侍)

日本海に向かう山陰の旅も、古今集のいくつかの和歌が浸るように、大江山を越えて千年前の人々の旅路でもあった。

やがてしののめあたりから風景は一変する。由良川の岸辺は葦の原だ。岸辺の葦の原は大きく茂って、由良川の流れを包みこむ勢いだ。

予期していなかった車内放送が流れた。

由良の門(と)を 渡る舟人 かぢをたえ ゆくへも知らぬ 恋の道かな(曽禰好忠)

由良川の瀬戸をこいでゆく舟が櫂(かい)を失ってさまようように、おのが恋もどのようになるのだろうか。由良川の風景は千年もの間、日本海と都をつなぎながら、物語もつないできたのだ。
ここにもふるさとを愛する車掌さんがいた。車掌さんの解説のおかげで、車中の旅をたいくつせずにすごせる路線だ。

今、京都は観光客があふれている。観光の仕方も、団体旅行が一般的だったけど、このところ個人旅行が増えつつある。
ヨーロッパの人も、ガイドブックを手に、日本の歴史を学びながらの旅をうまく楽しんでいる。
私も高校生のときは、正月になると百人一首を競った。半世紀の時を経ても、あの頃かるたとりで覚えた古今集の和歌は、一生記憶から消えることはない。しかも、和歌をよみながら、時代を知り、歴史を思い出し、表現や言葉を再認識するなど、日本人の精神的成長にどれ程影響を与えることか。
古今集は、教科書にしてもらいたいくらいだ。

ことんと電車は急停車??
「どうしたんですか?」
「いのししが当たりました」

こんなこともある山陰線だ。
(本稿は老友新聞本紙2018年6月号に掲載した当時のものです)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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