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医療と健康

2023年11月24日

お薬屋さん今昔

昭和30年代、私が子供の頃、街中の薬屋さんといえば少し古びた家屋で、入口のガラス窓にはたくさんの半紙に赤や黒の墨字で漢方薬だの塗り薬だの様々な宣伝文句が書かれた張り紙が貼ってある記憶があります。写真はイメージですが、今は、そんなレトロな薬屋さんを見かけることはほとんどなくなってしまいました。

お薬屋さん今昔

今日よく見かけるのは、そもそも「薬屋さん」というよりは「ドラッグストア」と呼ばれる、薬はもちろん、化粧品、食料品から酒類など、生活に関わるあらゆる品々が所狭しと置いてあるスーパーのような薬局が増え、昔風の薬屋さんのイメージとは随分変わってしまった気がします。お薬屋さんも変わりましたが、私たちお薬を買う側も随分お薬屋さんとの関わりが変わってきたように思います。スマホやパソコンなどの普及で様々な健康情報がすぐ手に入る今日、健康に関する知識、いわゆるヘルスリテラシーが向上した高齢者では自分の健康に対して、より気配りをするようになり、同時に日常服用している薬についても知識が深まり、健康に対する自己責任も大きくなったように思います。

このようにヘルスリテラシーがしっかりしてくると、軽度な身体の不調は自分で手当てすることの能力もまたしっかりしてきます。WHO(世界保健機構)では、このような自分で適切に健康に対処できる能力を「セルフメディケーション」と呼んでいます。セルフメディケーションについてはWHOだけでなく、近年のわが国で膨張し続ける医療費を抑制し、日本の医療制度(国民皆保険制度)を維持するためにも国を始め、日本医師会、日本薬剤師などが必要不可欠な要因として重視しているのです。長く続いたコロナ禍で、健康に対する関心が高まったと同時にセルフメディケーションの気運も高まったと思われます。

セルフメディケーションでは、かかりつけ医など医師のアドバイスは勿論のこと、薬の専門家である薬剤師さんからの適切なアドバイスも大切なポイントとなります。このようなセルフメディケーションと関わりの深い、薬屋さんで購入される医薬品のことを「OTC医薬品」と呼ぶようになっています。OTCとは「Over The Counter(オーバー・ザ・カウンター)」の略で、薬局やドラッグストアなどで、自分の軽度な症状に合わせて自己選択して購入できる医薬品のことを言います。なんでもかんでも診療所や病院にかかるのではなく、これまでも経験したことのあるような軽い症状であれば、自分が培ってきたヘルスリテラシーを基に薬剤師さんなどのアドバイスを取り入れながらOTC医薬品を上手に購入することはとても大切な保健行動だと言えるでしょう。

もう一つ、お薬屋さんと言えば病院やクリニック受診の際に渡される処方箋を持って行くと、「ジェネリックに変更しても良いですか?」などと聞かれることも最近はよくあることと思います。ジェネリック医薬品とは、最初に開発され製品化された薬(ブランド薬あるいは原薬)と同じ有効成分を含む薬品であり、原薬と同じ品質と安全性が保障されている後発の医薬品のことを言います。ジェネリック医薬品には、ブランド薬に比べ低価格で提供されるため患者さんの負担が軽くなることは勿論のこと、国レベルでの医療費全体の費用が削減される可能性が高いなどのメリットがあります。一方で、ジェネリック医薬品はブランド薬の特許が切れてからでなければ製品の開発と市場参入が出来ない、すなわち後発薬品の導入がどうしても遅くなる点や、原薬と同じ有効成分を含んでいても、製造プロセスなどにより、微妙な差異の出ることがあり、これが個々の患者さんに対する薬の効き目に微妙な影響を与える可能性がある点など、デメリットもあることも覚えておいて頂きたいと思います。

さらに、とても残念なことですが、最近ジェネリック医薬品を製造している大手の数社で、製品の不正な手順による製造や規格に適合しない材料使用、さらには品質試験での不正など命に係わる薬の安全性に関する信頼を著しく失墜させるような不祥事が相次いでいることも明らかになりました。国(厚労省)は後発医薬品製造業者(メーカー)に対する管理・監督体制の強化を打出していますが、ここ数年のジェネリック医薬品の不祥事で多くのメーカーが業務停止命令を受け、医薬品の生産が停滞し、そのために例えば咳止めや痰を切る薬などの供給不足が今もなお続いており、私達の健康生活にも大きな負の影響が出ています。

いずれにしても薬は私たちの健康に深くかかわっており、もはや手放すことのできない必需品となっています。セルフメディケーションの視点からも、OTCを利用し、最適な薬を適切に服用してこそ私たちの健康長寿に役立つことを是非ご理解してほしいと思います。

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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