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2016年11月29日

市田ひろみ流「スピーチのコツ」女優時代の恩師からの教え<市田ひろみ 連載9>

「何かひとこと」「スピーチ」など、人前で話すことはむつかしい。

私達が講演で依頼される時間は最初から60分、90分と時間の設定があるので、その内容はテーマによって話される。

話術というのは、ある種の「なれ」があって、回数を重ねてゆくと聞きやすくなる。その聞きやすさこそが、話の上手、下手を決める。

私達はプロだから、依頼された時間より長くてもいけない。短くてもいけない。私は手の甲にボールペンで終了時間を書いておく。これも「なれ」で、だからこそ、それで謝礼を頂くのだ。

ある日、講演が終わったら、お客様がやってきて、

「入れ墨ですか?」

といわれた。

「いいえ、ボールペンですよ」

と見せてあげたら

「ずっと気になってましたんや……」

と笑っていた。私は次回からもう少し小さく書こうと思った。

次にマイクの使い方だ。結婚式の披露宴などで、マイクに唇をくっつけて話す人がいる。本人は音量が大きくなっていることに気づいていないのだろうが、聞いている人はたまらない。

マイクを通して聞いていると、音量で内容まで左右される。パーティーでは先にしゃべっていた人のマイクと唇の距離を見ておくと良い。

 

さて私は、昭和30年代、大映の女優さんだった、田宮二郎さん、叶順子さんと同じ大映東京の、現代劇の女優だった。

あれからもう50年もなるが、私は昭和33年「手錠」(阿部毅監督)でデビューした。 それから女優としてスタートする。新人女優はまず、名前と顔を知ってもらわねばならない。

そのひとつとして、劇場のご挨拶というのがある。今は知らないが、映画の主演助演クラスの人が、入場のお客様にひとこと挨拶する。

満員のお客様を前に、拍手にむかえられて舞台に登場……。

「市田ひろみです。どうぞよろしく」

自分の声も聞こえない。

当時、私の担当マネージャーは斉藤さんという人だった。

「市ちゃん、自分の名前だけでは駄目だよ。その前に一行つけなきゃ」

その前に一行!!

「雨の中をおこし頂いて……」

とか

「年末のお忙しい中を……」

とか

「今夜はことの他寒いのに……」

とか。

「前もって考えて、それを自分の言葉で言うんだよ。でもね、ひとつ考えても駄目だよ。前の人が言うかもしれない。だから三つ程、考えといて!!」

舞台挨拶の日は、何度も何度も繰り返し練習した。

斉藤さんはこうも言った。

「短くても長くても、文章の中には起承転結が入っていないと駄目。始まりと終わりの言葉は考えといてね」

斉藤さんは私の言葉でしゃべらせようと思っているのだろう。紙に書いてくれるわけでもなく、サンプルもない。斉藤さんが私の師匠だったのだ。

「スピーチの前に、何か一行つけるのだよ。何でもいいから、季節のこと、その日の出来事など」

斉藤さんは亡くなったけど、私のスピーチの中には、私のそばにいて、一生私を守ってくれている。(老友新聞社)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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