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医療と健康

2023年05月17日

大動脈解離とは?その発症要因と予防法について

去る2月22日、落語家でタレントの笑福亭笑瓶さんが亡くなられた。死因は急性大動脈解離。66歳だった。実は笑瓶さんだけでなく、ほかの有名タレント、芸能人でもこの大動脈解離という病気にかかった人は多く、発症してしまうと高い確率で命を落とすという怖い病気なのだ。とくに我々高齢者では罹患リスクも高くなる病気であり注意が必要だ。今月は大動脈解離についてどのような病気なのか、詳しく説明しよう。

 

高血圧、動脈硬化が原因

大動脈解離とは、その言葉通り、大動脈と呼ばれる血管の内膜が解離、つまり剥がれるように裂けてしまう病気である。

大動脈とは心臓のすぐそばにある太い血管で、ポンプの役割をしている心臓から勢いよく流れ出す血液が最初に通る血管である。ご存知の通り血管は体中隅々まで張り巡らされ、血液を全身に送り込む役割を持つものだが、大動脈はいわばそのスタート地点に当たる最も重要な部分である。

上図のように、大動脈は心臓から上に向かって伸び、そこからすぐに「?」マークのようにカーブを描いて下方へ向かっている。この上に向かっている部分を上行大動脈といい、下に向かっている部分を下行大動脈という。そして上行大動脈で解離が起きた場合を「スタンフォードA型」、下行大動脈で解離が起きた場合を「スタンフォードB型」の大動脈解離と呼んでいる。

また血管はこのように内層、中層、外層の3層構造となっており、最も内側の内層の中を血液が通っている。この内層が何らかの原因で裂けてしまい、中層の中に血液が流れ込んでしまうのが大動脈解離という状態である。ポンプである心臓のすぐ近くであるために血流は強く、ひとたび内層が裂けてしまうと、そこへ勢いよく血液が流れ込んでしまうため、解離が広範囲に及ぶこともある。

背中、胸に激痛走る
ただちに救急車を要請

笑瓶さんが一度目に急性大動脈解離を患った際には一命を取り留めたのだが、その後の話で「背中でパリパリと音がして激痛が走った」と語っていたそうだ。この「パリパリ」という音がしたまさにその瞬間、大動脈の内層が裂けていたのだと思われる。

内層が裂けた後に外層まで裂け、いわゆる大動脈の破裂を引き起こした場合は直ちに命に関わる状態となる。特にスタンフォードA型は解離が心臓近くに発生するため、心不全、心筋梗塞等の致死的な合併症が起こり重篤な状態になる可能性が高い。発症後1時間につき死亡率が1%上がるとわれており、48時間以内にはおよそ5割の確率で死に至るという恐ろしい病気なのだ。

加齢で血管壁が脆くなる
70~80代の発症多い

急性大動脈解離は、なんの前触れもなく急に発症することが多いため、もし背中や胸に激痛が走るというような症状に見舞われた場合には、直ちに救急車を呼ぶ必要がある。

大動脈解離が起きる原因として最も大きなものは高血圧である。血圧が高いと、その分血管にかかる負担も大きくなるためだ。また、加齢とともに血管の壁が脆く弱くなるため、解離を起こしやすくなる。そのため加齢も大動脈解離のリスクとなるため、70代や80代で発症するケースが非常に多いそうだ。我々高齢者はとくに高血圧、そして血管が脆くなる動脈硬化には気を付けなければならない。また、喫煙習慣やストレス、糖尿病や睡眠時無呼吸もリスク要因とされている。そして発症の時期は暖かい季節よりも寒い季節に多く、時間帯は朝から午前中にかけて多いという。

もし大動脈解離を発症してしまった場合、まずはCT検査などで解離の場所や範囲などを調べる。そして大動脈破裂の危険性がある「スタンフォードA型」の場合や、すでに破裂を起こした状態であるならば即開胸して緊急手術を行うことが多い。この場合は裂けてしまった部分の血管を人工血管に置き換えるなどの処置が行われる。一方で「スタンフォードB型」で破裂の危険性が低い場合には、血圧を下げるための降圧剤や痛みを抑える治療などを行う。最近ではステントグラフト内挿術というカテーテルによる治療も行われるようになっている。

大動脈解離の危険因子

最後に、大動脈解離を予防するためのポイントをお伝えしよう。

大動脈解離の危険因子として、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙習慣などがあげられるので、これらを予防・改善することが重要である。

高血圧がある人の場合は、まずは血圧のコントロールが大切だ。毎日血圧を測定して記録し、降圧薬を処方されている場合には欠かさず服用し、そして定期的に医師の診察を受けること。

また脂質異常症の人も含め、毎日の食生活も重要となる。減塩に努め、また揚げ物など脂分の多い食事をなるべく控えること。飲酒をされる場合には量に気を付け、週2回程度の休肝日を設けること。今ではノンアルコールのビールや日本酒、ワインなども売られているのでそれらを上手く利用すると良い。また、あらゆる病の原因となる喫煙習慣も改善していただきたい。

急激な温度変化さける
睡眠十分とり、ストレスに注意

急激な温度変化についても注意が必要である。入浴の際、寒い脱衣所から熱い湯船に入るなど、急激な温度変化は血圧の急上昇、急降下を招き、心臓にも大きな負担がかかるので避けていただきたい。なるべく脱衣所を温かくし、湯温もややぬるめに設定すると良い。

入浴時だけではなく、普段過ごしている室温にもご注意を。寒い外出先から、急に暖かい部屋に入ったり、その逆も危険である。温度差をなるべく小さくするために、外出する際の服装、そして室内のエアコンの効かせすぎに注意をしていただきたい。

ストレスにも注意が必要である。イライラをためずに、休養・睡眠を十分に取ること。またウォーキングなどの軽い運動はストレス解消に繋がり、また血行促進や肥満防止にもつながる。趣味を楽しむのも良いだろう。

そして、これらの危険因子をお持ちの方で心配な場合には、CT検査などの画像検査を事前に行う事で、解離の原因となる動脈硬化や動脈瘤の早期発見も可能であるため検討してほしい。

今回ご紹介した通り、大動脈解離は命に関わる大変恐ろしい病気であるが、普段の生活習慣を見直すことで回避をすることも可能である。予防に努めていただきたい。

 

髙谷 典秀 医師
  • 同友会グループ 代表 / 医療法人社団同友会 理事長 / 春日クリニック院長 / 順天堂大学循環器内科非常勤講師 / 学校法人 後藤学園 武蔵丘短期大学客員教授 / 日本人間ドック・予防医療学会 理事 / 日本人間ドック健診協会 理事 / 日本循環器協会 理事 / 健康と経営を考える会 代表理事

【専門分野】 循環器内科・予防医学

【資格】 日本循環器学会認定循環器専門医 / 日本医師会認定産業医 / 人間ドック健診専門医 / 日本内科学会認定内科医 / 医学博士

【著書】 『健康経営、健康寿命延伸のための「健診」の上手な活用法』出版:株式会社法研(平成27年7月)【メディア出演】 幻冬舎発行「GOETHE」戦う身体!PART4 真の名医は医者に訊け(2018年6月号) / BSフジ「『柴咲コウ バケットリスト』in スリランカ 人生を豊かにする旅路」(平成28年1月) / NHK教育テレビ「きょうの健康」人間ドック賢明活用術(平成27年5月) / NHKラジオ「ラジオあさいちばん 健康ライフ」健康診断の最新事情(平成25年11月)

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