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医療と健康

2021年10月21日

ヒトとウイルスと薬の話

もし、どんな小さなものでも見ることのできる宇宙人が、UFOで地球に飛来したとします。きっとその宇宙人は地球をウイルスと細菌の惑星だと思うでしょう。

私たちはウイルスや細菌に囲まれて生活しているのです。身の回りだけではありません。例えば、腸内細菌という言葉を耳にしたことがあると思いますが、腸内には無数の細菌が活動していて、私たちの健康に大きな影響を与えています。当然のことながら、ウイルスもヒトのからだの中に潜んでいます。細菌と違って、ほとんどのウイルスは、感染症という名前で呼ばれる病気を発症させて、健康に悪影響を与えています。

例えば、ヘルペスウイルスは、感染すると神経節に常在します。ヒトは外からの小さな侵入者に対して「免疫」という防御機構を働かせて、「抗体」という兵隊が病気を発症させないようにしています。しかしながら、風邪をひいた時や過労によってその防御機構の働きが弱まると、ヘルペスウイルスは目を覚まして、「帯状疱疹」という神経に沿って赤くはれて激痛を伴う感染症を発症させます。この場合は、安静にして体調が回復すればもとの状態に戻ります。一方、肝臓に潜伏するウイルスは、慢性的に肝炎を引き起こし、肝硬変を経て肝がんにまで進行する場合があります。ヒトパピローマウイルスは、子宮がんを引き起こす「がんウイルス」です。

ウイルスは、子供ウイルスを生むための設計図である、短い一本の紐(「核酸」;DNAあるいはRNA)を二種類の膜で取り囲んだだけの単純な形態で、大きさは非常に小さく、例えばポリオウイルスはヒトの肝細胞の1/1000、大腸菌の1/70の大きさです。ウイルスは細胞の寄生体の一種で、寄生して初めて子供ウイルスを生み、増殖します。増殖する際には、寄生した細胞の「核酸」を借用して、子供ウイルスを作るために必要な材料を作ります。ですから、ウイルスは「生物」であるとともに、「無生物」であるとも言えます。複数のウイルスが侵入したヒトの細胞の中では、複数のウイルス「核酸」が混ざり合った状態であり、子供ウイルスの設計図である新しい「核酸」が複製される時にエラーが起こると、変異した子供ウイルスが誕生することになります。この確率はヒトが誕生する場合よりもかなり高いです。この変異した子供ウイルスがヒトの細胞から出てゆく時には、ヒトの細胞膜に包まれて脱殻します。つまり、ウイルスの外側の膜は、感染したヒトの細胞膜を利用していることになります。

子供ウイルスの誕生に不可欠な核酸の複製を阻害する薬は、「核酸系抗ウイルス薬」と呼ばれています。最初の核酸系抗ウイルス薬は、「イドクスウリジン」という点眼薬です。その後、ノーベル医学生理学賞を受賞したエリオン博士(製薬企業の女性研究者)が開発したヘルペスウイルスによる帯状疱疹の治療薬「アシクロビル」は副作用の少ない薬で、1週間程度の服用で症状が改善されます。また、ご存じのとおり、新型コロナウイルスの治療薬「レムデシビル」も核酸系抗ウイルス薬です。
100年に1度と言われている新型コロナウイルスの感染症で、社会生活が一変してしまいましたが、ヒトとウイルスの戦いはこれからも続きます。ウイルスに取り囲まれながら生活している私たちを、「抗体」と言う兵隊が感染症から守ってくれています。規則正しい生活、適度な運動、そして十分な栄養を摂って、この「抗体」を常に元気な状態に保ち、100歳まで健康な生活を送っていただけることを祈っています。

原口 一広 教授
  • 原口 一広 教授
  • 日本薬科大学 薬学部 薬学科長(薬学博士)
  • 化学を専門とする大学教員です。薬剤師免許を有しておりますが、薬剤師として勤務した経験はありません。定年退職後は、免許を活かして薬局で働く予定です。理由は、化学が医療現場にどのように関わっているか確かめるためです。このようなキャリアをお持ちの読者がおられましたら、是非とも、ご指導を賜りたくお願い申し上げます。
  • 日本薬科大学 公式サイト
    https://www.nichiyaku.ac.jp/

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