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2019年07月05日

「人のいやがることをしない」高齢者も公共の場・共同生活の場ではマナーに気を付けて<市田ひろみ 連載35>

その日、久しぶりのA子さんのランチを台無しにしたのは、どこかのおじいさんだ。
「あー、やだやだ。あー、やだ」
A子さんは、自分の声を抑えているものの、まわりの人たちはおどろいてA子さんの方を見た。

某ホテルのランチタイム。A子さんのランチは、すでに始まっていた。
ところがその最中、A子さんの斜め前のおじいさんが、自分の前歯の義歯をはずして、コップの中へ入れたのだ。洗うつもりなのか?
「帰ろ!」
A子さんと彼は席を立った。周りの人も、ようやく事の次第がわかってきたようだ。一緒にいた人は、何も言わなかったのか。
A子さんと彼の机の上は、あっという間に片付けられて、白いテーブルクロスは何事も無かったかのように整然と整えられた。
A子さんの怒りは静まらなかったが、彼は
「あれはひどいよなあ」
と、A子さんに同情しつつ……。
「コーヒーだけ飲んで、今日は帰ろう」
そう言ってラウンジの方へ誘った。

それにしても同行者は何も言わないのか。もしかして、そのおじいさんの家では習慣なのか。いつもそんなことをしているの? そうならきっと、A子さんと同じ嫌な思いをした人は他にもいるはずだ。
人の嫌がることをしてはいけない。
ケアハウスでの団体生活では自分の家でないことは確かだし、大勢の人の目があることを忘れてはいけない。

ところで、ケアハウスでも知らない間に嫌われ者になっている人がいる。一番の原因は食事のマナーだ。
「あの人と同じテーブルは嫌や」
「クチャクチャ、大きな音を立てて食べはる」
「あの人、いつも仰山ほうばって食べはるし、ごはんのカスが飛んでくる」
「そうやそうや。口の中のもん、飲み込んでから喋りはったらええのに」
「歯にはさまった野菜、シィー、シィー、言うて楊枝使わはるし、同じテーブル嫌や」
「せやねん、いつも早う行って、Bさんと席とんねん」
「すきやきの時のねぶり箸もかなんなあ」
入居者からは、とめどなく気になることが出てきた。お互い、何か気になることを我慢しつつ食事タイムを過ごしているのだ。
人の嫌がることをしてはいけない。周りには常に他人のプライバシーが存在している。

ところで、A子さんと彼は自然体だ。お互い、20年も前に伴侶を失って、それとなくコンサートや食事などを楽しんでいたが、お互いに邪魔にならない自然体だ。
人の嫌がることをしない。彼らはパジャマ姿になるのは寝る時だけ。略してもジャージだ。寒かったらカーディガンを羽織ればよい。
二人の暮らしの中で、相手の嫌がることをしない。相手の喜ぶことをしようと考えるより、嫌がることをしないと考える方がやさしい。
彼はA子さんより20歳も若い。A子さんはいつもおしゃれだ。ここにも二人の何かしらのルールがあるように思える。
(本稿は老友新聞本紙2018年2月号に掲載した当時のものです)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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