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コラム

2019年03月11日

オリンピックは和装で!和の文化を海外に紹介できる素晴らしいチャンス<市田ひろみ 連載33>

秋がぬけて、いきなり冬がこようとしている。
台風21号で激しい雨風は、御苑の大木の枝葉を切り飛ばしながら不安をあおっていた。今日は超天気で、昨日の嵐は信じられない。

私は嵐がくると、父のことを思い出す。
室戸台風(昭和9年)。
父・母・私・弟の家族4人で朝食を食べていたところ、玄関の硝子戸の外で、尻無川の増水。みるみる戸の外を攻めるような水。
父は私を背負って外へ出ようとする。しかし玄関の戸はすでに増水した水圧で開かない。
父は戸を足で蹴ったが、割れない。二度三度、まわりは父の足の傷で赤くそまった。
やっと割れた戸をくぐりぬけて、2階へ逃げた。
今尚、父の右足の親指には深い切傷が……(平成13年5月8日没)。
何度も聞いた自然の恐怖。当時3歳の私は、父の背中でおびえていたそうだ。
私の記憶にあるのは、玄関の硝子戸から見える徐々に増水する水。おだやかな尻無川が牙をむいた瞬間だ。
自然の恐ろしさだ。
台風21号は、夜が更けて猛烈な強風に変わった。京都御苑の大木は、お互いに枝と枝がぶつかりあい、折れた枝葉が我が家のテラスにぶつかり、とび散っている。
    ◇
オリンピックは7月だから、暑い夏の1カ月、選手たちは戦うのだ。
デザインなどの相談も受けているが、旗手、賞状を渡す人、受付、選手のケアなど、そうしたセレモニー、ステージ関係の和装は、自装でなければいけない。きものを着るたびに、着付師に手伝ってもらうのは困る。
あくまで自装でなければいけない。
和の文化を海外に紹介できるのはすばらしいチャンスだと思うが、なかなかスポンサーもみつからず、むつかしい業界のコンセンサスがとれない。
せっかくオリンピックが東京へ来るのに、このチャンスはどうしたら活かせるか。

ところで11月31日、京都東急ホテルで開催する「京都千年 文化の道」(午後1時~)にて、「映画と衣装」を語った。
中島貞夫監督が心を痛めておられるのは、映画が繋いできた和の文化だ。
時代劇で必要な結髪、化粧、着付、殺陣、所作など、特殊技術だ。誰かが正しく伝えねばならない。
しかもみな、高齢者だから、良い台本があれば、時代映画の映画人達はよろこんで参加するのだが。
ハワイ、ブラジルの日本人・日系人達は、時代劇のビデオがすりきれるくらい、セリフを言えるくらい見るのだそうだ。
日本の京都、その中の「太奏(うずまさ)」は、数々の時代劇を作ったところだ。時代劇の仕事人達は、今尚、あたえられた場でこつこつと仕事をしている。

国立競技場いっぱいに、江戸の風俗が広がれば、外国の人はびっくりするだろう。
たとえスクリーンの上であれ、時代劇を見せることができれば、外国の人はびっくりしてくれるだろう。
オリンピックの予算もすでにこまかく配分が決まっているだろうに、無駄なく日本的な演出にしてほしいと思っている。(老友新聞社)

(本稿は老友新聞本紙2017年12月号に掲載した当時のものです)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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