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コラム

2018年01月10日

挨拶をしない(できない)文化。日本の美徳を子供たちにどう教えるか<市田ひろみ 連載22>

「さすが!! 大島の緑色って、めずらしいですね」
「大島でも、そんな色あるんですね」

きものをほめてもらうとうれしい。

「母のかたみなんですよ」

薄い緑色のコンマルキ(※大島紬の絣のこまかさ)の大島紬は、たしかにめずらしいので、着て出ると何回かは目にとめた人が私のきものに注意をはらってくれる。
ほとんど身長も同じだから、私の今のきもの生活の中に、何枚か母のきものがある。
その上、何枚か残っているお茶席の写真にも、私の訪問着の写真がある。お茶席ごとに違うものを着ている。

思えば、娘にいいかげんな着こなしをさせまいと思う母の心意気ではなかったかと思う。京の女子として、お茶、お花、書道、英会話、英文タイプなど、必要なお稽古事を一通り行かされた。
自分の意志で行ったものではなく、むしろ行かされたという感じだが、その全てが「英文字タイプ」を除いて後年役に立った。
もっとも影響を受けたのは、京風の暮らし方だろう。

 

最近のニュースの中で、びっくりしたことの一つに、同じマンションの住人に出逢っても、挨拶をしないように、子供達を指導しているというものだ。

私は過去、90冊に及ぶ本を上梓した。ほぼ60冊はきもの、マナーなど。あとは生き甲斐論などだ。
そして2016年11月13日に淡交社から「茶席のきもの」を出版した。
内容は茶道の作法とともに、きものの着こなしや着付けを指導したもの。
礼に始まって礼に終る。挨拶に始まって挨拶に終る、ということだ。
立つ、座る、のみならず、実はその作法のすべてが理にかなっている。

人と人とのコミュニケーションは挨拶から始まる。
同じ屋根の下に住む人達が、朝逢えば

「おはようございます」

夕べ帰って来る人には

「おかえり」

その一瞬の中に、人として通いあうものが生まれる。私達の世代は、「すれ違っても無視」の方がつらい。

挨拶をしない派の人達は、子供達をストーカーなどの被害から守ろうという意図らしいが……。
これでは子供達が挨拶や感謝をしらない大人になってしまうのではないか。

日本は女が夜、ひとり歩き出来る数少ない国のひとつで、現在、来日する観光客も日本での治安の良さをあげている。
とはいえ、ボーダーレスの時代、日本だけ安全なわけではない。未だにオレオレ詐欺はあるし、尊属殺人も報道されている。
安心と思う自分のマンションに、不審な人がいたら注意しあうことも大切なことだ。
声かけを指導するところと、無視を決めるところと、はたして……。

日本も自分の身は自分で守らねばならない時代に入っているということだ。
残念なことだけど、日本人特有の真面目さ、こまやかな気遣い、やさしさなど、美徳とされてきたことを、子供達にどう教えたら良いのか、考えさせられた。

今年はどんな年になるのか。
「あけましておめでとうございます」
と、笑顔であいさつしあえる国になってほしいものだ。(老友新聞社)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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