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医療と健康

2019年12月20日

超高齢社会のリアル -健康長寿の本質を探る- 連載4「健康寿命とは」

先月号まで、日本人の寿命の時代的変遷や戦後の平均寿命の著しい伸び(長寿化)とその主な原因などを紹介しました。最近「健康寿命」という言葉が盛んにもてはやされるようになってきました。すこし嫌味な言い方をすれば、「健康寿命」という言葉の安売りあるいは安易な垂れ流しの状態とも言えなくはありません。毎日目にするテレビや新聞、雑誌などで食品や薬品そして家庭内用品など、ありとあらゆるものが「健康寿命」の延伸に有効だそうです・・・本当かしらと首をかしげるものが少なくないのです。

ところで、「健康寿命」という耳触りのよい言葉はいったいどのような定義で求められるものでしょうか?実は確実な定義は無いのです。逆に決まった定義がないからこそ、いい加減な「健康寿命製品」が巷に溢れることにもなるのです。「平均寿命」は確定的な定義と決められた変数(パラメータ)に基づき算出されます。平均寿命は簡単に言うと何歳まで生きるかを示す指標ですが、(健康であるか、病気であるか、要介護状態であるか、寝たきりであるかという)健康状態には関係なく、単にどこまで生きられるかという生存期間の長さだけを算出したものです。

一方、「健康寿命」とは、「あるレベル以上の健康状態」であと何年生きられるかを示すもので、いわば人生の中で「健康」に暮らせる期間がどの位あるかを示す指標です。しかし、そもそも「健康」とは何か?この言葉も実は非常にあいまいな言葉なのです。何をもって「健康」とするかは人によってさまざまに変わりますから、「健康寿命」の定義もまた色々変わってくることになります。ある人によっては、まったく病気ない生存期間を健康寿命と考える場合もあれば、ある人はまた多少の病気はあっても日常生活に支障の無い生存期間を意味する場合もあります。さらに労働に支障の無い生存期間(=働ける期間)、あるいは認知症にならずに生活できる期間、あるいは自分自身を(自覚的に)元気だと感じて生活できるような期間などなど、個人によって「健康な期間」は大きな差や意味が存在しているのです。

このように様々な意味を持つ「健康寿命」なのですが、研究領域では多くの場合「日常生活能力(ADL)に支障の無い生存期間」、つまり「(病気の有無に関係なく)毎日の自分の生活をしっかり自立して暮せる期間」を測定していることが多いのです。世界保健機関(WHO)をはじめ、国際的には「障害を調整した生存期間(Disability adjusted life years: DALYs)」が広く用いられています。障害には軽度なものから重度なものまで程度が異なるために、DALYsの算出には「完全に健康な状態」=1と「死に等しい(不)健康な状態」=0との間で障害を評価した尺度を利用しています。生活に少ししか影響のない障害であれば1に近く、非常に大きな障害で(例えば重篤な脳卒中の後遺症などで)非常に大きな障害やほとんど寝たきりのような障害は0に近いということになります。従って「健康寿命=障害のない期間+DALYs 」ということになります。一方、わが国では、国民生活基礎調査で調査されている「(自覚的に)日常生活に制限の無い」人を健康とみなした健康寿命を主たる指標として用いられています。

このように「健康寿命」の定義や算出方法などはまだ確実な決め方や標準的な方法はないのですが、うれしいことに、どのような方法で健康寿命を算出しても日本は世界的にも健康寿命が最大の国の1つであることは事実です。例えば2018年のWHOで算出されている健康寿命を見てみますと、日本74.8歳でシンガポール(76.1歳)に次いで第2位となっていました(2016年はトップでした)。アフリカの貧しい国々の健康寿命は50歳以下となっていますので、日本に暮らす私たちは、健康に長寿を楽しむことのできる国民ということができることは間違いありません。ぜひ皆さんも健康長寿を楽しめるような日々の生活を過ごしていただければと思います。

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 大学院 特任教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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