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医療と健康

2020年10月06日

超高齢社会のリアル -健康長寿の本質を探る- 連載13「歩く力は命定め―いつまでもしっかり歩ける能力を持ち続けましょう―」

コロナ流行の中で、不要不急の外出を控えるような生活がすっかり定着したようにも思われます。もちろん新型コロナウイルスの感染予防のためには人込みへの外出は控える必要はありますが、生活必需品の買い物はもちろんのこと、自宅の周りや近所の公園あるいは心の落ち着く神社やお寺など気の向いたところへの(安全と感染リスクを確認したうえで)散歩や外出は是非積極的にお出かけしていただきたいと思います。高齢期は家に閉じこもることなく、出来るだけ散歩などの足を使った外出を心掛けることが大切です。高齢期には、足の健康、歩きの重要性が増す年代なのです。

実は高齢期には「歩く能力」が健康長寿にとって、非常に重要なカギであることが国内外の多くの研究から明らかにされています。簡単に言うと、今回のタイトルにもありますように『歩く力は命定め』といっても過言でないほど、高齢者では歩く能力が生きる力をよく表しているのです。「歩く力」とは一体何かと言いますと、最も重要なのが歩く速度(スピード)です。次に大切なのが「歩容」という、いわば歩く姿です。よれよれと歩くよりは、出来るだけ背筋をピンと伸ばしてしっかりと歩きたいものです。

私たちは、どこでも「歩く」という行動をしています。歩くことは何ら特別なことでも難しいことでもなく、だれもが当たり前のように歩いています。しかし、よく考えてみると、「歩く」というのは人間だけが持っている極めて特殊な行動様式なのです。実は生物学的に見た人間(ヒト)の最大に特徴はまっすぐ立ち上がって二本の足でまっすぐにしっかりと歩くこと、すなわち「二足直立歩行」なのです。ヒトは1歳ころにヨチヨチながらも「歩く」能力を獲得し、百歳を超えて限界寿命に近くなると誰でもヨロヨロとなって「歩く」能力が失われ、その一生を終えることになっているのです。だからこそ、「歩く」こと「歩けること」は人生そのものといっても過言ではありません。実際、私たちはよく「人生の第一歩」とか「人生の歩み」といったように「人生」と「歩く」ことは密接不可分のように考え、日々を送っているのです。

また、よく言われる言葉に「老化は足から」というのもありますね。老化の研究からもその言葉は、非常に正しいと言えます。体の衰えや老化を真っ先に感じるのが「歩く」能力であることは、経験的にもよく知られている事実だと思います。特に足の蹴る力や蹴り出す力が弱くなるのが特徴です。もう一つ「歩く」能力の老化で特徴的なのは歩く速さが遅くなっていくことです。普段の歩く速さは「普通歩行速度」といって1分間に歩ける距離(メートル)を表していますが、その平均値は65歳以降、加齢とともに低下し、歩く速度が遅くなっていきます。特に毎日の生活の中で歩く速度が大切なのは、街中で横断歩道を青信号のうちにわたり切れるかどうかということなのです。日本ではどこに住んでいても、横断歩道での歩行者信号では1分間に60メートル歩くこと(すなわち歩行速度1m/秒)を標準として青信号の時間が設定されているのです。逆に言うと、歩く速度が1m/秒よりも遅い人は横断歩道を青信号のうちに渡り切れないという、非常に危険な状況にあるといえるのです。国内外の多くの研究から、歩行速度1m/秒より遅い高齢者では、横断歩道の渡り切りの問題だけでなく、早く歩ける高齢者に比べて、要介護の状態になりやすいとか、あるいは死亡率も高くなるなどの、多くの不利益を抱える可能性が知られています。すなわち、歩行速度は高齢期においては、近い将来における「生活での自立の能力の低下」、「転倒などの障害の発生」、そして「生存・死亡の予知因子」ということができるのです。図は近年欧米で報告された、高齢者の歩行速度とその後の生存年数が性・年齢別に算出されたもので、研究者の間でも大きな衝撃をもたらした論文でした。これによれば例えば65歳の場合、歩行速度の速い人(1.4m/秒以上)の生存年数は男性で約30年、女性では約40年なのですが、歩行速度の遅い人(0.4m/秒以下)の場合は男性で約10年、女性では約15年と男女とも歩く速さによって20年以上もの生存率に大きな差があることが明らかにされたのです。 このように「老化は足から」なのですが、それを予防するためには、出来るだけ歩くこと、出来るだけ家の中でもこまめに億劫がらずに体を動かすことです。これは老若男女全ての方に共通して言えることです。何もマラソンしたり、スポーツクラブで汗を流すことだけではありません。毎日の生活の中で出来るだけこまめに足を使うこと、買い物でも散歩でも、家の中での足踏みだけでも結構です。とにかく出来るだけ意識して足の筋肉を衰えさせないよう、足の筋肉を「貯筋」しましょう!お金も筋肉もしっかり貯めることが大事なんですね。「足は第2の心臓」とも言われます。足・下半身には体の6割以上の筋肉が付いています。筋肉を動かせば(収縮・拡張させれば)筋肉内の血管も収縮・拡張し、第2の心臓としての働きが活発化して全身に血流が豊かになり、酸素や栄養が隅々までいきわたり、新陳代謝が高まるのです。ということで、老化を遅らせる第1歩は「出来るだけ歩いて、こまめに体を動かして、貯筋に励みましょう」ということになります。皆さんもコロナはもちろん、熱中症にも十分注意して、いつまでも足を元気にしてお過ごしください。

[表]性別、年齢階層別における歩行速度別に見た生存率。
(Studenski et al, JAMA, 2013より引用)


(縦軸は生存率、横軸は年齢、グラフは歩行速度(緑が速く、赤が遅い)ごとに生存率が示されています。左;男性、右;女性)

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鈴木 隆雄 先生
  • 桜美林大学 老年学総合研究所 所長、大学院教授
  • 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
超高齢社会のリアル ー健康長寿の本質を探る
老後をめぐる現実と課題(健康問題,社会保障,在宅医療等)について,長年の豊富なデータと科学的根拠をもとに解説,解決策を探る。病気や介護状態・「予防」の本質とは。科学的な根拠が解き明かす、人生100年時代の生き方、老い方、死に方。
鈴木隆雄・著 / 大修館書店・刊 
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