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医療と健康

2022年01月02日

耐え難いがんの痛みを緩和する「核医学治療」について

がんというものは体の様々な部位に発生し、さらに転移をする恐ろしい病気であるが、進行すると骨にまで転移をするというのはご存知だろうか。がんが骨にまで転移することを骨転移と呼ぶが、骨転移を起こした際の痛みというのは、通常のがんの痛みとは異なり、痛み止めの薬が効きにくい厄介なものだという。今回は、骨転移とはどのようなものか、そして骨転移の痛みを抑えるための最新の医療技術について紹介をしよう。

がんは骨にも転移する

老友読者の中にも、現在がんと戦っている人や痛みに苦しんでいる人はいるだろう。がんは、その腫瘍細胞の一部がリンパ液や血液の流れに乗り、体全体に広がっていくことがある。悪性腫瘍細胞が、体のほかの場所へとたどり着き、そこで増殖を繰り返して新たな悪性腫瘍を形成してしまう。これが転移である。悪性腫瘍の出来た場所によっては、すぐ隣の臓器に直接転移することもあり、転移の仕組みは様々であるが、そのなかに「骨転移」と呼ばれるものがある。

骨転移とは、その名の通り、がん細胞が骨に転移することである。骨のように硬い組織にまでがん細胞が転移するのかと思うかもしれないが、実は骨というものも、他の細胞と同じように、破壊と生成を繰り返している。がん細胞は、骨が本来持っている、破壊のシステムをうまく利用して骨を壊していき、がん細胞もどんどん増えていくのだ。

では、実際にがんが骨転移をするとどのような事が起きるのか。どのような治療法があるのだろうか。

骨転移を起こした際に一番問題となるのは、その痛みである。痛みによって睡眠障害を引き起こしたり、行動も制限されてしまうほどだという。
骨転移による痛みの原因は、主にがん細胞から出る痛み物質による刺激、それからがん細胞が大きくなることによって、周囲の骨の中にある神経などを圧迫し、物理的な刺激によって痛みを感じる、あるいはがん周囲の酸性度が上昇し、痛みを感じるというものがあげられるそうだが、実際のところは、はっきりと解明されていないとの事だ。

そして、骨転移によって生じる痛みは痛み止めの薬が効きにくい。骨は他の部位に比べてモルヒネが効きにくいためだ。痛み止めが効きにくいからといって薬の量を増やしてしまうと、便秘や食欲不振などの副作用が強く出てしまう。

さらに、骨転移を起こしやすいがんというのは、前立腺がんや乳がんなど、がんにかかったとしても、治療を続けることによって長生きをすることが出来る、そのようながんが多いということだ。つまり、痛みさえ解消してしまえば、普通に生活をすることが出来るケースが多く、そのため痛みの解消がより重要とされるのだ。

痛み和らげQOLを向上させる「核医学治療」

このような、厄介な痛みを伴う骨転移だが、その痛みを治療するための治療法に「核医学治療」と呼ばれるものがある。

治療には、ストロンチウム―89という放射性物質を用いる。これは、カルシウムと同じような化学的性質を持っており、カルシウムと同様、骨を生成している場所に集まる性質がある。とくに骨転移を起こしている場所に集まりやすく、そこでストロンチウム―89はベータ線を放射し、その周辺の治療が行えるという仕組みだ。

実際に、治療はどのように行われるのか。実は、治療を受ける患者にとっては、とても簡単で、外来で注射を1本打つだけである。入院も必要なく、治療の所要時間は30分ほどで、すぐに帰宅する事が出来るという。

効果としては、痛み物質の減少、そして、骨が本来持っている、骨を壊す働きを持つ細胞も殺す事ができれば、骨の破壊を食い止めることも出来る。また、骨の中には神経が通っているが、その神経自体にもある程度の傷害を与え、麻痺させてしまう作用もあるという。このような複合的な作用で、骨転移の痛みを低減させるのだ。

また、ストロンチウム―89による治療は、副作用も少ない。抗がん剤による治療と異なり、吐き気や、毛が抜けたりするなど、不快な副作用がないことが特徴だ。ただし、注射を受けてから数日後に、個人差もあるが、一時的に痛みが強くなる事があるそうだ。これは、むしろ薬が良く効く人の場合に多いそうで、その後痛みは回復する。

放射線を出す物質を体内に注射すると聞くと、本当に安全なのか、体に悪影響があるのではと心配されるかと思う。しかし、ストロンチウム―89による治療は非常に安全であるという。骨転移を起こしている場所に留まったストロンチウム―89から出るベータ線は、およそ1cm程の範囲にしか飛ばないもの。薬剤が集まらない場所には放射線は飛ばないため、安全な治療法なのだそうだ。

ただし、治療後の注意点がいくつかある。ストロンチウム―89は、血液や尿などから体の外へと流れ出すため、周囲の人へ迷惑がかからないように注意しなければならない。注射後1週間くらいは、トイレで排尿をした後は水を2回流す、また尿失禁があり、オムツなどをしている患者の場合には、使用後のオムツをビニールに入れて、こぼれないようにして一般ごみに出すなどの注意が必要だという。

ストロンチウム―89による治療は万能ではない。この治療は、あくまでも骨転移の疼痛を治療するためのもので、がんそのものを治療できるわけではない。また、抗がん剤による治療と同時に行う事も出来ない。しかし、痛みさえ治療できれば、QOL(生活の質)は格段と良くなり、がんの治療を続けつつも、ごく普通の生活を送ることも出来るだろう。薬との相性が良い人の場合は、長くて数ヶ月も効果が持続し、さらに3ヶ月程度の期間をあければ、繰り返し治療を行うことも出来る。非常に高い安全性が保たれている治療なので、正しい知識を持って利用していきたい。

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