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医療と健康

2021年07月20日

要介護への入口「フレイル」とは?

「フレイル」という言葉をご存知だろうか。まだあまり馴染みのない言葉かもしれないが、日本老年医学会が提唱した「虚弱」という意味の言葉で、要介護状態になる一歩手前の状態を指す。世界でも随一の長寿大国である日本は、これから先、このフレイルに対する対策が極めて重要になるだろう。今月は、我々高齢者に忍び寄るフレイル問題について詳しくお伝えしよう。

「フレイル」の3要素
【身体的】【精神・心理的】【社会的】フレイル

健康な状態と要介護状態の中間の状態である「フレイル」。厚生労働省は高齢者の「介護・フレイル予防」を重点項目のひとつに挙げており、実は2020年4月には、後期高齢者(75歳以上)を対象としてフレイル状態をチェックする「フレイル健診」も開始されている。
一方で、このフレイルという言葉は老友本紙読者でもいまだ馴染みのない言葉かもしれない。フレイルは日本語では「虚弱」という意味だが、虚弱というと肉体的な衰えを連想するかもしれない。だがこのフレイルというのは「身体的なフレイル」「精神・心理的なフレイル」、そして「社会的なフレイル」という3つの要素が絡み合っているものであり、フレイルを予防するにはそれぞれの対策が必要となる。一つずつ解説していこう。

■身体的フレイル

身体的フレイルは体の虚弱である。運動不足や栄養不足などが原因で筋力が低下し、運動機能が低下した状態(ロコモティブシンドローム)や、加齢によって筋肉量が減少してしまう状態(サルコペニア)となり、立ったり座ったり、歩いたりといった日常的な活動に支障が起きてしまう。

身体的フレイルを予防するには、まず筋力を維持するために適切な運動を習慣づけることである。激しい運動を行う必要はない。軽く汗ばむ程度の運動が適切で、ウォーキングがおすすめだ。
ほかにもスクワット運動やつま先立ち運動などもよいが、慣れないうちは転倒を防ぐために安定したテーブルなどに掴まりながら行うとよい。
また、高齢者は栄養不足にも注意が必要である。働き盛り世代では「メタボリックシンドローム」に対する注意が必要だが、高齢になると逆に低栄養による痩せすぎが問題となるのだ。筋力を維持するためにタンパク質を摂ることも必要で、また骨を丈夫にするためにカルシウムやビタミンの摂取も重要だ。
さらに、良い栄養状態を保つためには口腔機能の維持も大切である。自分の歯で噛めることが何よりも重要だが、たとえ入れ歯であっても自分の口にぴったりとフィットしていてしっかりと噛めるようにしておきたい。
また歯肉炎の予防のためにも、歯や入れ歯だけではなく、歯肉を含めた口腔内全体のケアをすることを心がけていただきたい。

■精神・心理的フレイル

精神・心理的フレイルとは、うつ状態になったり認知機能が低下した状態である。高齢者ではとくに、会社を辞めたりして社会的な地位・役割を失ったり、配偶者との死別などをきっかけにしてうつ状態に陥ることが多くみられる。そして身体的フレイルにも関連するが、自分の力で自由に歩けなくなったり、活動範囲がこれまでよりも狭まってしまうなどの身体的な問題がきっかけとなり、うつ状態になることもある。また、加齢に伴う認知機能の低下も日常的活動に支障をきたしてしまう。

精神・心理的フレイルを予防するには、様々な事柄に関する興味を失わないようにすることである。新しいことにチャレンジする気持ちを持ち続けること。また、次の項で説明する「社会的フレイル」にも関連するが、会社を退職した後も地域の活動やボランティア活動などに積極的に参加し、人との関わり合いを積極的に持つこと。趣味を持ち続けて楽しむこと。悩み事を相談できる友人を持つこと――などが大切である。

■社会的フレイル

社会的フレイルとは会社を退職するなどによって社会への関わり合いが希薄となった状態や、配偶者や親しい友人との死別によって孤立してしまった状態のことである。
孤立状態が続くと、外出の機会も少なくなって運動不足になったり、一人暮らしで孤食が続くと栄養の面でも問題が生じやすく「身体的フレイル」に陥りやすくなる。また、外出や他人との接触機会が少なくなるとうつ状態にもなりやすくなり、会話などのコミュニケーションが少なくなると、当然認知機能の低下も招き、「精神・心理的フレイル」にも陥りやすくなる。

社会的フレイルを予防するためには、その言葉通り、高齢になっても社会的活動を継続することである。先にも説明したが、趣味を持ち、新しいことにもチャレンジする気力を持ち続けること。そして、小さなことでもよいので責任のある役割を引き受けることだ。ボランティア活動や老人クラブなどに入会するのも良い。他人や社会にとって役立つことをしたり、自分の好きなことに打ち込むことは達成感に繋がり、うつや認知機能低下の予防になり、また活動的になることで身体能力の維持にも繋がるだろう。

これら「3つのフレイル」はそれぞれが密接に絡み合うようにして日常的行動や生活の質に関わっているため、これらのうちどれか1つでも欠けてしまうとバランスを失い、ドミノ倒しのように全てが崩れてしまうきっかけとなるのだ。とくにコロナ禍の今は外出や社会的活動が自粛されているため、誰もがフレイルに陥りやすい状態です。日々フレイル予防に努めていただきたい。

髙谷 典秀 医師
  • 同友会グループ 代表 / 医療法人社団同友会 理事長 / 春日クリニック院長 / 順天堂大学循環器内科非常勤講師 / 学校法人 後藤学園 武蔵丘短期大学客員教授 / 日本人間ドック・予防医療学会 理事 / 日本人間ドック健診協会 理事 / 日本循環器協会 理事 / 健康と経営を考える会 代表理事

【専門分野】 循環器内科・予防医学

【資格】 日本循環器学会認定循環器専門医 / 日本医師会認定産業医 / 人間ドック健診専門医 / 日本内科学会認定内科医 / 医学博士

【著書】 『健康経営、健康寿命延伸のための「健診」の上手な活用法』出版:株式会社法研(平成27年7月)【メディア出演】 幻冬舎発行「GOETHE」戦う身体!PART4 真の名医は医者に訊け(2018年6月号) / BSフジ「『柴咲コウ バケットリスト』in スリランカ 人生を豊かにする旅路」(平成28年1月) / NHK教育テレビ「きょうの健康」人間ドック賢明活用術(平成27年5月) / NHKラジオ「ラジオあさいちばん 健康ライフ」健康診断の最新事情(平成25年11月)

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