高齢者のための情報サイト【日本老友新聞】

老友新聞
ルーペ

コラム

2023年06月05日

職人達の仕事ぶり~日本人の律儀と優しさ

(本稿は老友新聞本紙2018年3月号に掲載された当時のものです)
今年に入って半分は海外で仕事をしています。外に出ると改めて日本の良さと懐の深さを実感し、異文化に触れることで今までとは異なる角度で物を考えたり、日本文化を見直したり出来るものです。生活習慣が違う現地では日本の常識とかけ離れたことも多く、外国人である私は驚き、目からウロコの日々でした。

日本に多くの外国人が訪れるようになった幕末、外国人達はどのような目で日本を見ていたのでしょうか。文書、スケッチ、写真などでさまざまな記録が残されています。

その記録には、日本を初めて目にした風景の美しさや、日本人の心の豊かさが書かれていました。外国人は、その中でも特に身体が資本の職人達の働く姿勢や技術に感銘を受けたといわれています。それはどのようなことだったのでしょう。

飛行機のない時代、来日する外国人が最初に出会うのは船頭でした。当時、大型船が入港できる埠頭がなかった横浜では、沖合で「サンパン」と呼ばれる小舟に乗り換えて桟橋に移動していたのですが、その時船頭は「節まわしの奇妙な節で音頭を取りながら、小舟を生きた魚さながらに操っていた」とフランス人の青年は記しています。こうした唄には楽しく働く知恵と効率を上げる工夫があったのかもしれません。

世界的に見ても日本の交通マナーは良いといわれていますが、外国人が見た人力車の車夫達の、車が衝突した時やお客を乗せる時の順番決めなど、口論なしの礼儀正しさに脱帽しています。

電車の整列乗車など順番待ちに並ぶのが当たり前の現代の日本人に、この礼儀正しさが残されているのではないでしょうか。

また、外国人は意外なことに馬子などの人足にも注目しています。馬の乗り降りする時に優しく支えてくれたり、背中を踏み台として貸してくれたり、渡したチップを断ったり、心温まる話を明治になって英国女性が手紙の中に書き故郷に送っています。旅に同行した馬子の仕事ぶりに感嘆してるのです。

幕末に来日したドイツの外航使節の一人も「忠義で疲れを知らない走者」「いつも陽気な好人物で情熱的」という記事を書き残しています。

外国人達は社会的には下級階層でも、人足のたくましさ、情の深さ、仕事に対するプライドの高さに感銘をうけていたのです。

そしてもう一つ、日本人の大工の技に仰天しています。

当時見た事もないテーブルや椅子、洋風の家具を「まるで手品のように作り出した」とロシア艦隊の一員も「世界で最も熟練した大工」と褒め讃えています。

当時、外国人が絶賛した高い技術と心意気や仕事に対する責任感こそが、今の日本の「ものつくり」の基礎になっているのではないでしょうか。

たくましい律儀な職人魂こそ日本の宝だと思います。
(本稿は老友新聞本紙2018年3月号に掲載された当時のものです)

 

この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。

酒井 悦子
  • 伝統芸能コーディネーター / 筝曲演奏家

幼少より生田流箏曲を学び、現在は国際的に活躍する箏演奏家。

箏の修行と同時に、美術骨董に興味を持ち、古物商の看板も得る

香道、煎茶道、弓道、礼法などの稽古に精進する一方で、江戸文化の研究に励み、楽しく解りやすくをモットーに江戸の人々の活き活きとした様子と、古き良き日本人の心を伝えている。

高齢者に忍び寄るフレイル問題 特集ページ
日本老友新聞・新聞購読のお申込み
日本老友新聞・新聞購読のお申込み
  • トップへ戻る ホームへ戻る