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コラム

2021年03月24日

「刀と日本人」刀にまつわる日本語~連載56

いつものように歩いていた神田鍛冶屋町。頭を流れて来たのは子供の頃に意味も解らず歌っていた「村の鍛冶屋」のメロディー。
「ひましも休まず、槌打つ響き~」
とてもリズミカルで、トンテンカン、トンテンカンと聞こえて来そうなテンポの良い曲でした。
そこで私が鍛冶屋から想像したのが「刀」です。考えると刀から生まれた普段何気なく使っている言葉に気が付きました。どれだけあるでしょう……。
少し頭をひねると出で来る言葉は沢山あります。
武士が魂と呼ばれる刀を二本差すものとなったのは、戦国の世が終わった江戸時代です。しかし、刀と日本人の関係は古いのです。江戸時代以前は多少の贅沢品は輸入に頼っていた国でしたが、刀剣は日本の手工業製品で最も輸出品として力のあるものでした。
日本の職人達が魂を込めて作り、その品質と優美さは海外からも高く評価されていたのです。それは単なる道具として作られていたものではなく、職人が命をかけ、祈りを込めて世に生み出していたものだと思います。明治9年の廃刀令まで、長い歳月に渡り日本人にとって刀は武器だけでなく、精神的な存在でもあったのです。

刀鍛冶、研師、金工師、塗師など、職人の技術の粋が集められ一振りの刀が作られます。先人達が手工芸品として最初に生み出した世界に誇れる日本刀。だからこそ、刀にまつわる言葉が生活の中に溶け込んでいるのでしょう。

読者の皆様は普段どの様な言葉をお使いでしょうか? 頭の体操です、是非私と一緒に考えてください。結構楽しめると思います。
・太刀打ち出来ない・鞘当て・切羽詰まる・土壇場・大上段に構える・目抜き通り・懐刀・単刀直入・焼きを入れる・研ぎ澄ます・抜き打ち・身から出た錆・元の鞘に収まる・横やりを入れる・諸刃の剣・真剣勝負・反りが合わない・一刀両断・鍔迫り合い・付け焼刃・一太刀あびせる・地金が出る……。まだまだ出てくると思います。

私が意外だったのは「うっとり」というと言葉で、これも刀からうまれたものでした。「うっとり色絵」「うっとり象嵌」という言葉が刀剣金工用語にあります。そのままでは地味な金属に金を移し取る「移し取り」です。これが「うっとり」に変化し、漢字では「金袋着」を当てます。とても難しくて読めません。銅のような地味な金属さえ、金の薄い板で包まれると、まるで別物、その「移し取り」に目も心も奪われてしまい、茫然としてしまうことから「うっとり見つめる」という言葉がうまれたのです。
「綺麗な人をうっとり見つめる」というと、ぽや~んという印象があるので、とても刀などは思い浮びもしませんが、日本語のうまれた背景はとても面白いと実感します。

村の鍛冶屋の歌から想像したトンテンカンという音、これは「とんちんかん」という言葉の元になっています。刀を作る現場では、職人の息が合っていると相槌の音は「トン・テン・カン」と響きますが、息が合わないとテンがチンという、ズレた音に聞こえ「トン・チン・カン」となってしまいます。ちぐはぐで訳の解らない状態や言動、そのような人の事をしめす言葉として使われるようになりました。街を歩けばこそ新しい発見があるものです。(本稿は老友新聞本紙2015年11月号に掲載した当時のものです)

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酒井 悦子
  • 伝統芸能コーディネーター / 筝曲演奏家

幼少より生田流箏曲を学び、現在は国際的に活躍する箏演奏家。

箏の修行と同時に、美術骨董に興味を持ち、古物商の看板も得る

香道、煎茶道、弓道、礼法などの稽古に精進する一方で、江戸文化の研究に励み、楽しく解りやすくをモットーに江戸の人々の活き活きとした様子と、古き良き日本人の心を伝えている。

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