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三遊亭ぽん太の下町寄席からこんにちは!

三遊亭ぽん太の下町寄席からこんにちは!

2022年02月16日

連載6「寄席の春」

こんにちは、三遊亭ぽん太です。
寒い日が続いておりますが、東京では梅が咲いていたりと少しずつ春を感じるようになりました。
さていつもは落語家に関する話題が多いので今回は落語についての話をしようかと思います。
年が明けると寄席などではおめでたいお正月らしいネタがかかります。
私がよくやるネタは『かつぎや』『厄払い』などの江戸明治期の年越しの風習を描いた噺です。
新年の祝いに井戸神様に橙を捧げる、いい初夢を見るために七福神の絵の書かれた紙を枕に敷いて寝る、厄払いという行商人が家の前で厄払いの文句を言うなどという現代人には馴染みの無い文化を扱ってるのであまりウケないですが昔のお正月の空気が感じられてとても好きです。

現在東京には毎日営業している定席の寄席が四軒(上野鈴本、新宿末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場)あり、落語協会と落語芸術協会の二団体が十日ずつ交互に興行を行っております。
ちなみに私の所属している五代目円楽一門会は定席には出られませんが、落語芸術協会の興行にはうちの師匠好楽を始め数名の一門の師匠方がゲストとして出演しており交流があります。

閑話休題。
その関係もあり落語の世界では一月二十日までがお正月興行となっているのですが、年々世間のお正月の雰囲気が薄れる速度が早くなり、もう松の内(七日)を過ぎると客席の空気は平常時とそんなに変わらなくなります。
落語家だけがいつまでも「おめでとうございます!」と言ってる状態です(笑)
なので余計にそういった過去の習慣を扱うネタはやられる期間が短く、実質二週間程でしょうか。
さほどウケないしやれる時期もあまりない、落語家的には「儲からない噺」と言われる部類のネタです。
ただノスタルジーや文化の伝承も落語にとって大事な要素だと思ってるのでいつまでもやっていけたらと思っています。

さて二月になりますと立春、春ということでお花見のネタがかかります。
江戸っ子は気が急いてるので二月でもう花見です(笑)
特に寄席でも毎日のようにかかるのが『長屋の花見』というネタ。
このネタを聞くと「もうすぐ春だなぁ」と実感します。
私、このネタが大好きなんです。
あらすじを説明しますと、家賃も払えないような貧乏長屋の連中が大家に無理矢理誘われ花見に行くというただそれだけ。
ただ貧乏長屋の大家さんなので裕福でなくお金が無いなりに楽しもうというその工夫の仕方が笑わせどころなのですが、このギャグ自体が通じにくくなっています。
一例が【たまご焼きをこしらえるお金がないので代わりにタクアンを持ってく】という箇所。
今ならスーパーで買うと玉子の方がタクアンより安いくらいなのでなんだかピンときません。
また【番茶を煮詰めて水で薄めたのをお酒の代わりににする】というアイデアも「お酒って色味あったっけ?」と不思議な気持ちになります。
でもいいんです。
このなんだかアナクロなやり取りがたまらなくかわいいのです。
正直私も昔は古くさくて好きなネタではなかったのですが自分でやるようになったら、噺の中にそんなシーンは無いのですが大家さんがみんなを集める前におかみさんと二人で「こうやったらたまご焼きに見えるかな~」などと相談してる姿を思い浮かべるようになり登場人物が愛しくなってきました。
落語自体が大道具や小道具も無い、扇子と手ぬぐいだけを使ったごっこ遊びのようなものです。
そしてみんなが落語家の話す言葉を媒介にして想像しながら楽しむ、というとても知的な芸能です。
『長屋の花見』にもそれに通じるものがあり、お金は無くてもとても豊かな世界でいいなぁと微笑ましくなります。
お正月のくだりで挙げたネタに出てくる風習も今のように物に溢れた時代では無いからこその、お餅を食べる、いつもよりもいい着物を着る、といった今から考えたらささやかな新年を寿(ことほ)ぐ行いがとても尊いように思えます。
現代はネットなどに過激なエンタメが多く溢れていて、落語自体も刺激の強いアレンジが施されたものも増えてきてます。
でも「なんだかフワフワと楽しい」というのも落語の良さの一端だと私は思いますし、コロナ禍でクサクサとした心をほぐしてくれるんじゃないかと思います。
貧乏長屋のみんなも面倒くさいと思いながらも大家さんの誘いに乗るにはそのごっこ遊びがちょっと楽しいからでしょう。
ですのでぜひ春の暖かい日に散歩がてら寄席や落語会にお出掛けになって想像力の羽を伸ばしてみてはいかかでしょうか。
その際はぜひ師匠好楽の建てたしのぶ亭もご贔屓に。
寄席が近くにない方は落語のCDを買って聞きながら散歩しましょう。
よき行楽(好楽)日和となりますように!

三遊亭ぽん太

お知らせ

三遊亭ぽん太の月例落語会
ぽん太ラボvol.27
日時・2月23日(水・祝)14時開演
会場・亀戸梅屋敷
料金・予約1500円、U25割1000円、ぽん太初めて割500円

三遊亭ぽん太独演会
春のぽんまつり’22
日時・3月19,20,21日(土,日,月·祝)14時開演
会場・池之端しのぶ亭
料金・3日券3000円、2日券2500円、1日券1500円、U25割1000円
予約、問合せ・pontathe2nd@gmail.com

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三遊亭ぽん太
  • 三遊亭ぽん太
  • 落語家
  • 1985年2月24日生まれ / 愛知県名古屋市出身 / 法政大学社会学部卒 / 2015年2月に三遊亭好楽に入門、前座名「好也」 / 2018年11月二ツ目に昇進「ぽん太」を襲名 / 現在、持ちネタは古典新作合わせて140席以上ある
  • ぽん太さんのHP
    https://pontathe2nd.amebaownd.com/
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