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医療と健康

2022年08月31日

QOL低下、健康寿命短くする高齢者の「低栄養」に注意

ここ数日はようやく秋を感じられるようになったが、今年の夏は本当に暑かった。夏バテのため食欲が落ちてしまったという読者も多いのではないか。今月は高齢者がとくに今の時期に陥りやすい低栄養について特集する。

低栄養に陥る3つの要因

暑い日が続くとどうしても食欲が減退する。冷たい飲み物や、のどを通りやすい麺類などを選んで、簡単に食事を済ませてしまってはいないだろうか。すると体力が落ち、夏バテに陥り余計に食欲が減退する悪循環となってしまう。

とくに高齢者の場合は低栄養になる傾向が高くなっている。2020年に厚生労働省が発表した「令和元年度国民健康・栄養調査結果の概要」によると、65歳以上の高齢者で低栄養傾向にある人の割合は男性で12.4%、女性では20.7%となっており、85歳以上では男性17.2%、そして女性では27.9%と、これは4人に1人以上の割合で低栄養傾向であると言える。

高齢者が低栄養に陥りやすいのは暑さだけではない。「身体的要因」「環境的要因」「心理的要因」の大きく3つの要因に分けられる。

■身体的要因
高齢になると歯を失ったり、噛む力が弱くなる。また飲み込む能力も衰えてむせやすくなったり、味覚も衰えてきたりするなどで、食事を食べにくくなる、食事を食べたいという気持ちが薄れてくることがある。このようなことが原因で、だんだんと食事量が減ってきてしまい、すると胃袋も小さくなり、ますます食事量が少なくなっていく。また高齢者の場合、足腰の筋力も衰えてきて、遠くまでの買い物が億劫になったり、重たい食材を購入して持ち帰ることもできなくなる。さらに、長時間立ち、料理をすることもできなくなり、出来合いの総菜のみで済ませたり、極めて簡素なものだけで食事を済ませてしまったりもする。

■環境的要因
会社を辞め、責任のある立場から身を引いたり、地域活動などにも参加をしていないような状況にあると、社会的孤立を招き、閉じこもりになることがある。また、車の運転をやめたり、自転車に乗れなくなったりなどの理由から買い物へ出かける回数が減ってしまう。また経済的に苦しくなり、節約のため買い物を控えたりもする。このような状況に陥ると食生活にも影響が現れ、栄養が偏ったり低栄養状態になることがある。

■心理的要因
高齢になると様々な「喪失」を体験することとなる。たとえば配偶者との死別、仲の良かった友人との別れ、可愛がっていたペットを失うなどだ。
また、先の説明にもあるが、会社を辞めるなどして責任ある立場から退くということも「喪失」である。さらに加齢により耳が聞こえにくくなる、目が見えにくくなる、歩きにくくなる、体力が落ちる、記憶力が低下するなども、身体的能力の「喪失」となる。
これらの喪失体験をすると非常に強い精神的ストレスとなり、うつ状態、そして食欲の減退に繋がり、低栄養状態を招いてしまうことになるのだ。

身体にもたらす影響

人間が体を動かすために必要なエネルギーは、当然のことながら毎日食べる食事から得ている。また体・筋肉を作るために必要なたんぱく質、そして体内で起きている様々な生体活動に必要となるミネラルも食事からとる必要があるのだが、食事量が減る、あるいは偏りのある食事になると低栄養状態になり、必要な栄養素が十分に得られなくなってしまう。
では、低栄養状態になると、体には実際どのような影響が現れてくるのか。

■筋力の低下
低栄養になると体重が落ち、痩せて体が細くなる。つまり筋肉量も落ちてしまうことになる。当然筋力は低下し、重いものが持てなくなったり、歩くのが遅くなる。また長距離歩けなくなったり、階段の上り下りが出来なくなるなどの状態に陥る。
そして、体を支える筋力が低下することによりバランス感覚も悪くなったり、バランスを崩した際のふんばりが効かなくなったりするので転倒のリスクも高まる。

■骨密度の低下
骨は、古くなった組織を捨て、新しい組織を産生するという新陳代謝を常に行っている。低栄養状態になると、骨を作り出すための原料となるカルシウムなどの栄養素が不足するため、新しい組織が作られず、古い組織がどんどん捨てられて、やがて骨がスカスカになってしまう。いわゆる骨粗鬆症の状態だ。こうなると骨が弱くなり、転倒などをした際の骨折のリスクが高まってしまう。

■免疫力の低下
果物などに多く含まれるビタミンCは免疫効果を高めてくれる。緑黄色野菜などに多く含まれるビタミンAは、ウイルスなどが体内に侵入することを防ぐ粘膜を保護する役割がある。これらビタミンが不足すると免疫力が低下してしまい、風邪や肺炎などにかかりやすくなってしまう。

■血糖の低下
ごはん、パン、麺類などの炭水化物の摂取量が少なくなると血糖値が下がり、低血糖の状態となる。低血糖になると疲れを感じやすくなったり、集中力の低下や眠気、眩暈などの症状が現れることがある。
このように、単に体重が落ちる、痩せて体が細くなるなどにはとどまらず、QOL(生活の質)の低下や健康寿命を短くしてしまうリスクなど、様々な悪影響が現れるのだ。

1日3食、食事を楽しもう

低栄養を防ぐためには、やはり欠食をせずに1日3食、きちんと食事をすることだ。食事の時間をしっかりと確保し、食べる量や品目、栄養バランスなどにも注意をすること。すでに噛む力、飲み込む力が低下してしまっている場合には、料理が細かく刻まれた「刻み食」や、おかゆ、ゼリー、とろみをつけたスープなどを食べやすい食品を選び、朝・昼・晩の1日3食にこだわらず、少しずつの量を複数回に分けて食べると良いだろう。
また、食事をするという行為自体に楽しみを持つことも大切である。毎日同じような食事を、自分一人だけで食べるような食習慣を続けていると食事が楽しめない。家族や友人と一緒に、会話を楽しみながら、様々な献立の食事をすることで、自然と食べる量も増えていくことだろう。

髙谷 典秀 医師
  • 同友会グループ 代表 / 医療法人社団同友会 理事長 / 春日クリニック院長 / 順天堂大学循環器内科非常勤講師 / 学校法人 後藤学園 武蔵丘短期大学客員教授 / 日本人間ドック・予防医療学会 理事 / 日本人間ドック健診協会 理事 / 日本循環器協会 理事 / 健康と経営を考える会 代表理事

【専門分野】 循環器内科・予防医学

【資格】 日本循環器学会認定循環器専門医 / 日本医師会認定産業医 / 人間ドック健診専門医 / 日本内科学会認定内科医 / 医学博士

【著書】 『健康経営、健康寿命延伸のための「健診」の上手な活用法』出版:株式会社法研(平成27年7月)【メディア出演】 幻冬舎発行「GOETHE」戦う身体!PART4 真の名医は医者に訊け(2018年6月号) / BSフジ「『柴咲コウ バケットリスト』in スリランカ 人生を豊かにする旅路」(平成28年1月) / NHK教育テレビ「きょうの健康」人間ドック賢明活用術(平成27年5月) / NHKラジオ「ラジオあさいちばん 健康ライフ」健康診断の最新事情(平成25年11月)

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