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医療と健康

2021年07月26日

社交ダンスのススメ

私は、あまりテレビや新聞の健康コーナーを信用しない。体に良い食べ物や習慣というのは、たいてい健康ビジネスの業者が売るための嘘だと思っている。良くなったという人の声は、何人中何人で、何人が変わらなくて、何人が悪くなったのか、というデータとセットでなくてはならない。
業者ではなく、知人や「専門家」が勧めることもある。こちらは素朴な信仰か、世間に迎合しないとテレビに出させてもらえないという理由がある。

こんな私が健康に関するエッセイを書くのには無理があるが、一つ、ダンスについて書いてみる。ウッチャンナンチャンとか金スマで知られるようになったが、社交ダンスには競技会がある。ワルツ、タンゴなどのスタンダード5種目、サンバ、ルンバなどのラテン5種目に分かれ、スピード、大きさ、正確さからくる美しさ、芸術性を競う。技量に応じてクラス分けされ、上達に応じて昇級していく。私自身はというと、日本ダンススポーツ連盟JDSFのスタンダードA級、ラテンA級になった。ただし、他にも団体があり日本ボールルームダンス連盟JBDFではC級になってしまうのだが。

ダンスは健康に良いと思われているが競技ダンスは違う。
美しく見せるためにはぎりぎりまで体をひねり、無理な態勢で力がかかるから膝、腰を痛めやすい。先日、知人が転倒して骨折した。ライバルたちに負けたくないから膝が痛くても練習することがある。もちろんコラーゲンやグルコサミンが効くわけがない。

ただし姿勢はよくなる。
練習場にはビデオが備えられており、常に客観的な姿をチェックできる。私は1分20秒の競技時間位なら保てるのだが、気を抜くとすぐ老人の姿勢になってしまい、反省している。
人間、60過ぎたら実年齢より見た目年齢のほうがはるかに重要だ。毎晩顔の手入れしている妻に言う。『皴なんて遠くからでは分からない。肌よりも姿勢のほうがずっと大事だ。凛とした姿には内面、思想すら反映される。いくら肌がすべすべでも猫背では魅力がない。』と。ライザップのCMだって体重の減少より、姿勢の差のほうが大きい。

ダンスが健康と直接的な関係がないとすると、なぜ始めたのか?
40代の時、職場が嫌になった。会社が能力成果主義を取り入れ昇進に格差をつけ始めたころだった。どう考えても大して成果のない人が評価され、私ははずされた。そこで仕事への気持ちが冷め、世の中を広く眺めて社交ダンスを始めた。面白くて練習すればするほど上達し週5日踊った。競技会では本業での地位と違ってどんどん昇級した。

もう一つ、未知の世界で女性にもててみたいという願望があった。
始めてみて分かったのだが、ダンスがうまい女性は美しい人が多い。大学でのクラブ勧誘でも美人の新入生が来ると誘いにも一段と熱が入るだろう。競技のパートナー選びでも美人はもてるから上手い男性と組むことが出来、その結果上達も早い。そもそも「美人」というのは、日ごろから自分の美しさに気を配っているということもあろう。
そして男は上手くなればもてる。パーティだけなら地位、財産とか顔、性格など関係ない。世間ではこれらの点で負けていても、ダンスの技量だけで逆転できるのだ。

健康という言葉の定義をどうするか?
血圧とか血糖値ではなく生活の楽しさということで評価するならば、社交ダンスをすすめたい。今ダンスを始めても、何もしなくても、等しく5年が経つとするならば、5年後を考えて行動すべきである。

今の私の健康生活は「千駄木菜園」で野菜を作り、週3回踊ること。
5年後はどうなっているか? がんになっていても、それは仕方がない。

小林力 日本薬科大学教授
  • 小林 力 教授
  • 日本薬科大学教授(薬理学)
  • 1956年長野県生まれ。1981年から製薬会社の研究所で循環器、中枢神経関連の創薬に従事、2013年から現職。趣味は地形、歴史を考えながらの都内散歩。
  • 日本薬科大学 公式サイト
    https://www.nichiyaku.ac.jp/

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