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コラム

2020年07月16日

話芸とは。桂歌丸師匠の見事な「間」のとり方に魅せられて……

2018年7月に落語家・桂歌丸師匠が亡くなった。
何と言ったって私は「笑点」の大ファンで毎週たのしみにしている。とりわけ歌丸師匠のたくみな話術は、最後の落(おち)まで引っぱってゆく力がある。
特に間(ま)のとり方が見事だ。最近のテレビのバラエティや漫才は、裸になったり殴ったり、変顔からわい談まで、いわばどたばたと言えるものまで。落語の持つ伝統的な話芸とは違う路線で、若者の心をつかみ、笑いをさそっている。

平成5年。私がお茶のコマーシャルを依頼された時、
「間(ま)をよく聞いておいて下さい」
と渡されたのが、桂米朝師匠の「京のぶぶづけ」だった。何度も聞いた。確かに間(ま)が生きている。
東の歌丸・西の米朝と、その話芸には定評があった。落語家の中には古典落語を追及し、研究している人も多い。歌丸師匠も古典の中からネタを探し出し、新しい作品によみがえらせたり、古典落語の復興に取り組んでいた。伝統的な古典落語を、一方で強く取り組んでおられたのだ。

歌丸師匠の落語の中には「。」と「、」が見事に生きていた。
書道もそうだ。白い紙の上に黒い文字。白と黒が共生して、美の世界を作る。
歌丸師匠の話芸には、同時にほっとするあたたかさがある。

私の仕事の中に「講演」があり、うまくなりたいとは思っているが、話芸は深い。
私が気をつけているのは「起承転結」だ。これは必ずしも文章を書く時のみに限ったことではない。
①導入・はじまり
②内容
③変化・転換
④終息
たとえ400字の原稿であっても、100字の原稿であっても、4つの柱を考えておくとよくまとまる。これは話術でも同じだ。
結婚式のスピーチでも、会合の挨拶でも、起承転結で原稿を作っておくとよい。音楽が大きすぎたり、内容があちこち迷ったりしたのでは、せっかくの良い内容であっても、胸を打つことはない。

歌丸さんの場合、よく死亡ネタで笑わせてくれたが、この種のネタは上級クラスで、決して素人には難しい。
「落(おち)」は笑ってこそ、落だ。
やさしく、美しい日本語は、こんなところで静かに守り伝えられているのだ。
また方言も、土地に伝承されてきたもので、一部の人によって守られてきた。京都弁(京ことば)はしあわせな言葉で、テレビ、映画など、メディアで伝えられているので、理解されることが多いが、この間、テレビでサハリンに使われる言葉を聞いて感激した。
使われている言葉の後に、サハリンに生きた人達の暮らしや文化が偲ばれるのだ。
きびしい冬、氷に閉ざされ、雪原。花咲く春。
間も方言も美しい。日本語の中に折り込まれている。話芸に繋がっている。歌丸さんの思いもそんなところにあったのかも。

(本稿は老友新聞本紙2018年9月号に掲載した当時のものです)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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