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コラム

2020年11月10日

世界を旅したレポーター、兼高かおるさんに思いを寄せ…

兼高かおるさんが亡くなった。

 

昭和34年から30年にわたる長寿番組で、兼高さんはレポーターとして世界の国や町や人を紹介した。

日本の旅行番組のパイオニアだった。兼高さんの美貌、品の良い語り口。

世界の150か国を旅した兼高さんの行動力は、遂に南極まで行ってしまった。

 

私はきものの研究の延長線上に、世界の少数民族の衣装の研究があり、当然世界の小さな村を取材、研究している。

私の旅はパリやローマではない。私は地図に名前の載っていないような小さな村、そんなところに昔ながらの暮らしむきで生きている人達のなかに、素晴らしい手仕事の衣装を見つける。

電気、ガス、水道の恩恵を受けることもなく、短い人生を生きる人達の村だ。

 

観光旅行地ではないので、時々、

「兼高かおるの衣装版だね」

とよく言われた。

その時はツアーガイドや通訳もいなくて、商社の方にお世話になった。

 

私は自分の訪ねた村を、兼高さんのテレビ番組の中で見つけることが時々あった。私の憧れの人。しかもリポーター。アンカーも編集も自分でなさっていたというから、キャリアとしても兼高さんはパイオニアだった。

 

今は私の仕事も難しくなりつつある。1970年代はメキシコやグアテマラなど市場へ行けば衣装を買えた。また、骨董屋さんでも買えた。

しかし今は、市場では見かけないし、母親や祖母の衣装を大切にしているので骨董屋さんにも無い。そんな時にはコレクターの所へ行く。この場合、良いものが手に入るが、値段が高い。

手仕事の衣装はだんだんと世界的に消滅しつつあり、入手困難だ。

 

2019年の6月25日から7月1日までの一週間、大坂天王寺のアベノハルカスのアート館で「世界の衣装展」をする予定だ。

しかし現在、日本の外交問題もきわどいところでせめぎあっている。

 

1945年、太平洋戦争が終わった時、世界でもう二度と戦争は起きないに違いないと思っていた。今でも戦争は二度と起きないと信じたい。

私が訪ねた国で、重要な文化遺産が失われたところが何か所かある。アフガニスタンのバーミヤンの像。シリアのパルミラの遺跡。シリアからはアメリカ軍が撤退というが、どんなことになるのか。

私は世界の文化遺産を見て来たが、パルミラは最も美しいと思う。イスラム国によって、この世界的に美しいパルミラのシリア砂漠の商業都市は粉々になった。

 

私はいつも危ない所を歩いて、女性達の衣装を手に入れる。

銃を持って私を守ってくれたルブアルハリ砂漠の、かつての国境周辺。

帰国してからは、ベドウィンのクロスステッチを3年かかって作る。黒地に赤い糸の服やイエメンのホカリシヤの総刺繍も、工芸的に再び手に入れることはできない。

私がトランクから衣装を出して自慢話をしているのを、じっと聞いていた父は

「お前が取材の旅行をしている間、わしは無事に帰ってくれるようにおがんでおるんや」

と、ぽつりと言った。 私の旅をずっと気にしてくれているなんて初めて気づいた。

 

私の衣装のフィールドワークは兼高さんの無言のキャスティングだったのだろう。6月に大阪へ来て、美しい女達の手仕事を見てほしいと思っている。(本稿は老友新聞本紙2019年3月号に掲載した当時のものです)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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