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コラム

2021年09月08日

「ほめ言葉」~京の言葉の使い分け。しんどいことで……。

京都には、いろんなほめ言葉がある。

 よろしいなあ
 結構どすねえ
 まめまめどすなあ
 もうひとつどすなあ
 お見事どす
 やっぱり違いますなあ
 まだまだどすなあ
 はれますなあ
 ちょっとコートどすなあ(地味)

しかしこのほめ言葉をどこでどう使うか、適材適所の難しさがある。
多くは芸能や文化的な表現に対する思いを言葉に変えるのだ。
しかしそこにも使う人の個性やニュアンスに効果が一変したり、必ずしもほめ言葉とならないことがある。

ある地方都市の呉服の展示会で、こんなことがあった。
お母様と成人式を迎える娘と、それに財布を握っているおばあさんの3人が来られて、もうすでに2時間くらい振袖の試着をしている。
やがて、ようやく水色の振袖に落ち着くかなと思いつつ、雑談に入っていた。

突然、お見立てに着付けていたきものアドバイザーのAさんが

「美人の娘さんでおたのしみですねー」

私は女優のBさんに似ていると思っていたけど、昔、そう言って気まずくなった経験があるので言わなかった。
そんなときアドバイザーが……

「これでヘアーメイクして、この振袖を着ていたら最高ですよ。タレントのBさんにそっくりですよ」

するとおばあさんが

「Bさん?私、Bさんは嫌いですよ、Bさんには似てませんよ……」

場面は凍り付いた。

Aさんはほめ言葉のつもりでBさんに似ていると言ったのだろう。たしかにBさんに似ているし、タレントに似ているといえばお客さんに喜んでもらえると思ったのだろう。
おばあさんは過去に何人かの人から孫のことをBさんに似ていると言われてきたのだろう。
おばあさんにとっては孫は孫。タレントには関係のないことだ。似ているというのは必ずしもほめ言葉ではない。

実は私も何回か嫌な思いをした。

「ひろみ先生と似ている人が、今日、午後に来られるので、一緒に写真撮ってあげてくださいよ。
「いいですよ」
「本人さんが、ひろみ先生とそっくりと、いつも言っておられます」

それとなく会場で私とそっくりだというお客様を待った。

「来られました」

社長の声が弾む。
しかし似ていない。私も二十年後ならこうなっているかもしれないが、どこが似ているのだろう。まゆ毛の太いところか。
自称、そっくりさんという奥さんは、ひとしきりおしゃべりをして機嫌よく帰っていった。

京のほめ言葉は「お見事」が最高で「結構どすなあ」「よろしいなあ」「もうひとつどすなあ」と続く。「よろしいなあ」は70点か。
一言が相手を喜ばせたり、傷つけたり。
京の人は、ほめ言葉ひとつにも、使い分けながら人間関係を使い分けている。しんどいことで……。
(本稿は老友新聞本紙2020年5月号に掲載した当時のものです)

 

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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