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コラム

2021年08月20日

「おひとりさま」~私が惹かれたレストラン

明日来ても、もうこの店に電気のつくことはない。

私のイメージからいっても、和食だろう。しかしイタリアンが多い。京都では食事というと和食だし、おばんざいも濃い味が好きだ。

私のごひいきはイタリアンレストラン「セプト」だった。もう12~13年も通う、マイキッチンだ。
街中だし、超高価でもないし、おいしいし、手早くて、スタッフの感じも良い。それと、私は仕事の関係で、毎日同じ時間に行けるわけではない。大抵は、ほぼ夕方だ。
そして大抵は「おひとりさま」だ。誰かと一緒の時も、決まった人ではなく、その時、思いつく人だ。

私がこのレストランに惹かれたのは、実は訳がある。
私が常連になりはじめた頃、母の日に私が行くと、さりげなくカーネーションをくれる。たった一本のカーネーションだけど、最初は感動した。スタッフのおもてなしだ。一人でレストランに行くというのは、最初は落ち着かなかった。

 ――しかしこの店も、引っ越すというのだ。

実は、一人暮らしは無駄が多い。この頃はカットレタスとか、カットされた野菜も多くなったが、残り物はどうするのだ。保存できるものは海屋が、料理したものを明日も、その次も……という訳にはいかない。
しかも、私たちの世代、いわば高齢者は「もったいない」という心理が働くので捨てにくい。それに好き嫌いがあり、栄養が偏る。

私が気にしていたのは、人の目線だ。

「あの人、一人で来てはる」
「わびしいなあ。一緒にごはん食べる人、いないのか」

一人で行くのは気が引けるのだ。子供の頃、家族揃って「いただきます」で始まる食事の残像を引きずっているのだ。

しかし時代は変わった。
この間、ニューヨークの「おひとりさま」が紹介されていた。
ランチも自分の好きな時間に、好きなレストランへ行って、好きなものをオーダーして、また食事が終わったらすぐにオフィスへ戻る。つまり時間の節約なのだ。
しかし、その時、自由な時間があれば、その間に隣の席の人とおしゃべりするのも良し、ときにはビジネスが広がったり、恋が生まれたり。
決して、おひとりさまはわびしいということではなく、時代にマッチしたライフスタイルだったのだ。

仕事を終えて自宅に帰り、一時間かけておかずを作り、5分でたいらげ……やっぱり、作る時間もたまには良いけれど、もっと怖いことがある。高齢者が火を使うのは十分注意が必要だ。
夫婦は、どちらかが、どちらかを見送る。妻が残ったら、何とか手早くおかずを作れるが、夫が残ったときはコンビニの弁当がおひとりさまになる。
家でテレビを見るのもたのしみな食事だけど、おひとりさまの食事も楽しんでほしい。

私の「セプト」は無くなって、もう今夜から電気のつくことはない。また、お気に入りのお店を探さねば……。(本稿は老友新聞本紙2020年4月号に掲載した当時のものです)

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市田 ひろみ
  • 服飾評論家

重役秘書としてのOLをスタートに女優、美容師などを経て、現在は服飾評論家、エッセイスト、日本和装師会会長を務める。

書家としても活躍。講演会で日本中を駆けめぐるかたわら、世界の民族衣装を求めて膨大なコレクションを持ち、日本各地で展覧会を催す。

テレビCMの〝お茶のおばさん〟としても親しまれACC全日本CMフェスティバル賞を受賞。二〇〇一年厚生労働大臣より着付技術において「卓越技能者表彰」を授章。

二〇〇八年七月、G8洞爺湖サミット配偶者プログラムでは詩書と源氏物語を語り、十二単の着付を披露する。

現在、京都市観光協会副会長を務める。

テレビ朝日「京都迷宮案内」で女将役、NHK「おしゃれ工房」などテレビ出演多数。

著書多数。講演活動で活躍。海外文化交流も一〇六都市におよぶ。

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