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コラム

2019年12月13日

「あそび」とは明日に備える「あすび」?…江戸商人の一日より~連載40

先日、久しぶりに日本橋を訪れました。この場所はいつ訪れても江戸の香が漂っています。創業が江戸期の老舗が立ち並び、目を閉じるとすーっと当時の街中にタイムスリップ出来るような錯覚をおこします。

日本橋の上に立ち高速道路の下の川を眺めていると、何百年も前からこの街の人々の暮らしを見て来た生き証人のように、今もただ静かに何事もなかったように流れています。

改めて江戸の中心で商いをする人々の一日を振り返ってみようと思いました。商家の主人はどのように働いて一日を過ごしていたのでしょうか?

「早起きは三文の得」起床の後洗面、そして身だしなみを整えてご先祖と神仏に感謝をして散歩に出かけます。これはただの健康促進のための散歩ではなく、ご近所のパトロールです。

どぶ板が壊れていないか、用水桶に水はしっかり入っているか、母子家庭はちゃんと暮らしているか、病人の具合はどうか、高齢者は元気でやっているかなど、声を掛けて様子を見てまわります。今日一日のご近所の様子を把握しておくためです。向こう三軒両隣り。今でいう「見守り隊」や民生委員の仕事の原型とも言えると思います。江戸っ子の台詞「そんなこったぁ朝飯まえよ」という朝食の前にサッと気持ち良い近所付き合いです。

商人の主人の朝はこうして始まります。お店の前は綺麗に掃き清め、塩を盛り、打水もし、お客様のために、座布団、煙草盆を用意して、板の間も木目に沿って綺麗に拭き清められます。掃除が終わり家族揃って朝食をいただきます。そして午前中はせっせ、せっせとしっかりお金を稼ぐビジネスをします。

昼食を終えると午後も勿論働きます。今度はビジネスではありません。働くという字を分解すると「人」のために「動く」です。そして他の人(端の人)を楽にするから「はたらく」です。朝周りでチェックした所を直したり、手助けしたり、人、コト、モノのために自ら動きます。

そして夕方は明日に備えます。これは明日備(あすび)といって「あそび」となり明日に備えたアフター5。これが自分の自由な時間となります。よく「江戸っ子は3時間しか働かない」というのはこのような理由です。

朝飯前・使役・はたらくという3つの働きの中で人として最も高く評価されたのは午後の「はたを楽にする」働きでした。 江戸商人の1日の3分の1以上が世のため、人のために使われていました。これは今のビジネスマンの1日と比較したくても、とても比較できません。

「共により良く生きる」ために、上に立つ者こそが心得ておかねばならない共生の哲学です。働くという意味を今一度考えてみたいと思いました。たいそうな事をしなくても、例えば電車の中で高齢の方に席をお譲りするのも、人のために動く行為です。視点を変えれば普段の暮らしの中でもまだまだ人のために動くことは沢山ありそうです。

(本稿は老友新聞本紙2014年7月号に掲載した当時のものです)

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酒井 悦子
  • 伝統芸能コーディネーター / 筝曲演奏家

幼少より生田流箏曲を学び、現在は国際的に活躍する箏演奏家。

箏の修行と同時に、美術骨董に興味を持ち、古物商の看板も得る

香道、煎茶道、弓道、礼法などの稽古に精進する一方で、江戸文化の研究に励み、楽しく解りやすくをモットーに江戸の人々の活き活きとした様子と、古き良き日本人の心を伝えている。

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