コラム
マコのよもやま話 | 和泉 雅子
連載33 ミュージカルと声優
テレビが白黒から、チラホラカラー番組が出始めたころ、画面に『カラー』と標示された。それが、なんと、近々一日中カラー放送になるとか。
そんな時、NHKからミュージカルの出演依頼があった。前年に、サー姉ちゃん(吉永小百合さん)がミュージカルに出演。大評判になった。さて、今年は?びっくり。私に白羽の矢が立った。
「えっ、むり、無理」と断ったが、押されて押されて、断り切れず、引き受けてしまった。カラーで『ある愛の奇跡の物語』作曲は南安雄さん。すぐ、レコード関係者に報告すると「えーっ!マコチン、南さんの曲は難しくて、マコチンには無理!」と、全員に言われた。「だって、引き受けちゃったよ」あわてたレコード関係者。この日から猛特訓が始まった。
レッスンしてみると、ほんとに南さんの曲は難しい。でも、運が良かったのは、レスタティーブという、セリフのような歌が多かったので、助かった。ダンスは得意。お芝居は本業。なんとか、難問突破だった。
相手役は、オーデションだ。ピアノが弾けて、ダンスが出来て、譜面で唄えて、演技のできる人。リュッコ(林隆三君)が選ばれた。テレビ初出演だった。でもリュッコは、その後大人気の俳優さんになり、各局のドラマに引っ張り凧。うれしかった。テレビ局の長い廊下で、私の姿が見えると、通りすぎるまで最敬礼をする。「リュッコ、やめてえ」「いえ、いえ、いえ」二人で大笑い!必ずミュージカルの話になる。
あっ、そういえば、この作品に、あの溜め息の女王、世界的シンガー、ヘレン・メリルさんが日本に住んでいたので、共演が叶った。大ファンだったので、鼻血が出そうな程、興奮した。でも、後にも先にも、ミュージカルは、これ一度きりだった。ミュージカルが終わって、ホッとしたのも束の間。またまた、南さんと仕事をすることになった。人形作家の辻村寿三郎さんの人形劇で、厚生年金ホールで上演する『人魚姫』の声の出演依頼だ。又々、石坂君(石坂浩二さん)と共演。しかも、シェークスピア劇のようなセリフまわし。あわてて劇団四季の友人にレッスンを頼んだ。劇中、南さん作曲の唄があり、又々、レコード関係者にしがみつき、猛レッスン。「なんで、マコチンは引き受けちゃうのぉ」と、あきれられた。この声の出演も、これ一度きりだった。
あっ、声といえば、文化放送で、一年間ディスクジョッキーをしたことがある。早朝の10分間の番組で『和泉雅子と羽佐間道夫の気になる朝』。羽佐間さんは、ディーン・マーチンの吹き替えをやっていて、大人気の声優さんだ。博学で、隅から隅まで知っている、すごい人だ。
ある時、私に洋画の吹き替えの依頼があった。『誰がために鐘は鳴る』のイングリッド・バーグマンの吹き替えだ。羽佐間さんに言ったら「大変、大変」と、大あわて。そこで羽佐間さん、自分もふくめて、主役クラスの声優さんに声をかけてくれて、全員、端役で出演してくれることとなった。
羽佐間さんのレッスンが始まった。「雅子ちゃん、いい、洋画の吹き替えは、日本語とちがうんだよ。日本語のセリフだと、語尾をパキパキッて切ってしゃべるよね。洋画の吹き替えの語尾はフニュー、と終わるんだ。だから、フニューを心掛けると、映像にピタリとはまるんだよ。さあ、練習してみようね」。ラジオの時の羽佐間さんじゃなく、本業の声優さん、って、すごい!
さて、いざ本番。バーグマンがスクリーンいっぱいに映り、音楽も聞こえて、すっかりバーグマンになった気分。休憩になりトイレへ。洗面所の大きな鏡を見て「キャーッ」と悲鳴を上げた。びっくりしたスタッフと声優さん達がかけつけてきた。「雅子ちゃん、どうしたの!」「だってえ、鏡に、バーグマンじゃなくて、私が映ってるんだもん」「バーグマンになりきっている」と大笑い。でも吹き替えの仕事は、これ、一度っきりだった。
じゃあ、またね。
この記事が少しでもお役に立ったら「いいね!」や「シェア」をしてくださいね。
- 和泉 雅子
- 女優 冒険家
- 1947年7月東京銀座に生まれる。10歳で劇団若草に入団。1961年、14歳で日活に入社。多くの映画に出演。1963年、浦山監督『非行少女』で15歳の不良少女を力演し、演技力を認められた。この映画は同年第3回モスクワ映画祭金賞を受賞し、審査委員のジャン・ギャバンに絶賛された。以後青春スターとして活躍した。
1970年代から活動の場をテレビと舞台に移し、多くのドラマに出演している。
1983年テレビドキュメンタリーの取材で南極に行き、1984年からは毎年2回以上北極の旅を続けている。1985年、5名の隊員と共に北極点を目指したが、北緯88度40分で断念。1989年再度北極点を目指し成功した。
余技として、絵画、写真、彫刻、刺繍、鼓(つづみ)、日本舞踊など多彩な趣味を持つ。 - 主な著書:『私だけの北極点』1985年講談社、『笑ってよ北極点』1989年文藝春秋、『ハロー・オーロラ!』1994年文藝春秋。
- 今注目の記事!































