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マコのよもやま話

マコのよもやま話 | 和泉 雅子

2022年12月22日

連載9 はじめての飛行機

羽田空港といえば、いつも幟を持って見送り専門だった。玉緒ちゃん(中村玉緒さん)も見送ったことがある。日活に入ってからは、礼子ちゃん(笹森礼子さん)と私が振り袖を着て、外国の映画俳優さん達のお出迎え。花束贈呈係だった。これだけ羽田空港に来てるのに、なかなか飛行機に辿り着かなかった。

なんと、ついに私、14歳、あの、飛行機に乗ることになった。8本目の映画「大氷原」の北海道ロケだ。主演はジョーさん(宍戸錠さん)。ジョーさんは、トッカリ撃ちのハンター役。私は、ギリヤーク族の娘でジョーさんの恋人役。北海道網走の流氷が舞台だ。斉藤組(斉藤武市監督)は、すでに北海道でロケの真っ最中。

母と二人で、飛行機で千歳空港へ向かう。広い待合室で待っていると「千歳空港行きです」とアナウンス。ドキドキしてゲートをくぐると、飛行場が広がり飛行機が待っていた。いよいよタラップを登った。マリリン・モンローもビートルズも羽田のタラップでの写真が有名だが、そのタラップである。

飛行機の入り口にスチュワーデスさん、きれい、すてき。そして機内へ。国鉄の列車とは違う、アドバルーンの中に入ったような不思議な匂いがした。座席に座る。ごっついシートベルトがあり、ガチャンとはめると、「ほんとに飛行機に乗ってるんだ」と興奮した。前の物入れにはゲロ袋まである。飛行機ってすごいなあ、と思った。

ブルンブルン。いよいよ出発。滑走路を走り出した、と思ったら、フワリと浮いた。もう、空。銀座が見える。街がみんなおもちゃのように見える。ガタガタ。初の雲の潜り抜け。雲の上に出た。雲の原が、どこまでもどこまでも続き、夕暮れの太陽が雲を赤く染めている。私、天使になったような気分だ。

日が落ちた。黄昏だ。向こうから来る人の顔が良く見えない「あの人は誰そ」が「たそがれ」になったとか。私は、この青い夕闇が大好きだ。
そして夜になった。夜空に星と月が輝き、きれいだ。
「マコチン、よく飽きないねえ」
と母が呆れる程、窓の外を眺めていた。
機内では、選べるお茶が出て、お食事まで出る。なんと洋食だ。西洋人になった気分。なんてはしゃいでいるうちに、北海道上空。そして千歳空港に着陸。あああ、天使が終了した。

飛行機の扉が開き、タラップへ。うわあ、寒い。北海道の三月は、はんぱではない。ブルブルしながら、木造の空港内へ入った。
羽田に見送りに来た日活の人が、北海道の現場で手銭ちゃん(チーフ助監督さん)が行方不明になり、大騒ぎになっている、とのこと。千歳空港で出迎えてくれた北海道支社の人に
「手銭ちゃん、どうなりました」
「大丈夫。どうやら見つかったようです。なんもなかったようです」
とのこと。安心した。支社の車で札幌駅へ向かう。

しばらく走ると、丘のような平らな所が。
「夏はスズランがビッシリ咲くんだあ」
あの有名なスズランが一面に咲くなんて、見てみたい。あっ、雪印のアイスクリーム。食べたい、食べたいとおねだりして、寄り道。うわあ、地元の本家のアイスクリーム。外は寒いけど、お店の中はポッカポカ。本場のアイスクリーム、おいしい、大感激、大満足。ペロリと食べた。

いよいよ札幌の町。通りが広くて、写真で見ていた外国に来たような気分。さて、夜行寝台に乗る前に夕食。札幌の日活映画館の隣のお寿司屋さんへ。家も銀座で寿司もやっていたので、味は分かっている。でもネタがまったく違う。海老も生、蟹もある。貝類も違う。魚も違う。北海道のにぎり寿司は江戸前とは違い、寿司の新しい世界に出会ったようで、大ファンになった。

さて、乗り鉄子の最大の楽しみ。初めての夜行寝台。ホームから車内へ。いつもの国鉄の匂いがした。座席はなく、カーテンだらけ。のぞくとなんと寝床だった。さあ、遠軽に向かって、出発進行。じゃあ、またね。

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和泉雅子
  • 和泉 雅子
  • 女優 冒険家
  • 1947年7月東京銀座に生まれる。10歳で劇団若草に入団。1961年、14歳で日活に入社。多くの映画に出演。1963年、浦山監督『非行少女』で15歳の不良少女を力演し、演技力を認められた。この映画は同年第3回モスクワ映画祭金賞を受賞し、審査委員のジャン・ギャバンに絶賛された。以後青春スターとして活躍した。
    1970年代から活動の場をテレビと舞台に移し、多くのドラマに出演している。
    1983年テレビドキュメンタリーの取材で南極に行き、1984年からは毎年2回以上北極の旅を続けている。1985年、5名の隊員と共に北極点を目指したが、北緯88度40分で断念。1989年再度北極点を目指し成功した。
    余技として、絵画、写真、彫刻、刺繍、鼓(つづみ)、日本舞踊など多彩な趣味を持つ。
  • 主な著書:『私だけの北極点』1985年講談社、『笑ってよ北極点』1989年文藝春秋、『ハロー・オーロラ!』1994年文藝春秋。
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